第878回「森叩きは集団リンチ」

 深谷隆司の言いたい放題第878回

 「森叩きは集団リンチ」

 私が早稲田大学雄弁会当時の仲間の一人が森喜朗さんだった。やがて小渕総理が亡くなった後、森さんは総理になったが、通産大臣であった私は留任になり、森内閣の閣僚としてともに国家のために働いた。

 ところが「神の国発言」でごうごうたる批判を浴び、支持率9%となり選挙も惨敗、私も苦杯をなめた。

 森さんには昔から失言癖があった。ここでこんなことを言うと誤解されると何度も思ったものだが、彼は意にかえさず言いたいことは率直に言い続けた。しかし、それでもなお、私は彼に友情を感じ、決して憎めない人だと思って来た。それは彼の人柄をよく知っているからだ。彼の心は優しいし、物事を率直に受け止め、精いっぱい働く人と認識していたからである。

 今度の発言を聞いた時、ああまた失言だなと思ったが、まさかここまで森叩きが高まり、辞任に追い込まれるとは思わなかった。

 どう見ても彼が大見得を切って「女性蔑視」を言ったわけでない。それは発言の締めくくりの部分を聞けば明らかだ。彼は「私どもの組織委員会にも女性は7人ぐらいいますが、みんなわきまえておられます。お話もきちんと的を得たものが集約されて非常に役に立っています。欠員があると、すぐ女性を選ぼうということになるわけです」と語っている。むしろ女性を称賛しているではないか。

 ところが国会での野党やマスコミは挙げて「女性蔑視」「男女差別」と大騒ぎし、まるで集団リンチ、集団いじめになっていったのだ。

 森氏が謝罪会見をした時の態度が火に油を注いだと言われているが、あの時の記者たちの態度はどうであったか。まるで国民代表になったかのような糾弾の姿勢で、もっぱら「早く辞めろ」の大合唱であった。私だったとしても不快感を抑えられなかったと思う。

 国会では野党の女性議員が白い服を着て白い花を胸に抗議の姿勢、私から見れば「茶番」としか見えなかった。

 国会での蓮舫氏などの質問ぶりに、私は何度も腹を立てたものである。菅首相に対して敬意や礼儀は全くなく、傍若無人な発言の繰り返し、高飛車で無礼極まりない態度の連続である。

 日本では女性が虐げられていると外国の人は見ているとマスコミは騒ぐが、あの女性代表蓮舫氏の姿を見れば、とんでもない話で、女性の地位は守られていて、虐げられているのは国を代表する首相なのである。

 アスリートからの批判続出と言うが、特に自主的な発言ではなく、ほとんどが記者からの質問に答えたもので、聞かれれば当然「男女差別は間違っている」との共通した答えになる。大坂なおみ選手が、「辞めるべきか」と聞かれて「わからない」と答えていたがあれが本音なのである。

 芸人の某氏は最近テレビのコメンテーターとなって、便乗したように「聖火ランナー辞退」と発言、脚光を浴びている。よく聞くと森さんが「何が何でもオリンピックをやる」と言ったことが気に食わないというのだが、組織委員会会長としてオリンピック開催の決意を述べただけのことで当然の話ではないか。

 たぶん「芸人は人気者だから人が集まる、田んぼで走ってもらうしかない」と言ったことが気にくわなかったのではないか。

 しかし、この発言にも一理ある。新型コロナが蔓延して日本全体が危機にある。マラソン大会でも沿道に集まらないように呼び掛ける時代だ。平時ならともかく、芸人や有名人たちの聖火リレーは人が集まり密になる。この際考え直した方がいいのではないか。

 ボランティア参加者の辞退が増えているというが、森さんのためのボランティアではないのだから、この動きも理解できない。

 ある記者が「ボランティアの人に対する感謝の心が無いからだ」と言っていたが、もともとボランティアは感謝を求める性質のものではないし、まだ働いたわけではないのに、感謝せよというのも理解できない。

 世界から批判が相次ぐとマスコミは言うが、マスコミが必要以上に外国に「日本は男女差別の国」と訴えているのだから、そうした動きになってくる。

 森さんは、前立腺の手術をし、肺がんになり、今は週2回の透析が続き満身創痍の体である。それでも83歳の体に鞭打って無報酬で働いてきた。

 世界各国と交渉し、組織委員会を束ね動かしてきた。スポーツ界に果たしてきたこれまでの実績も貢献も、何よりも五輪東京招致への尽力も一切語られずに、ひたすら批判の繰り返しに私は辟易し、涙が出る思いだ。

 幻冬社から出版した森さんの本「遺書 東京五輪への覚悟」に、五輪実現に命を懸ける姿が描かれている。是非読んでもらいたいものだ。


 日本人はいつからこんな狭量な人種になってしまったのか。最近の動きをみると日本人のおおらかさが全く感じられない。東日本大震災の時、日本人のすばらしさが称えられ、「絆」の大切さが語られたものだった。

 コロナ騒ぎが広まって、「マスク警察」まで現れた。テレビで報道されたが、マスクから鼻を出している老人に詰め寄り、何人かの人が力ずくで引きずり出す場面であった。

 正義を振りかざし、弱い相手を見つけると集団リンチ、集団いじめが始まる。今度の騒ぎでも感じたが「女性蔑視」ではなく「老人蔑視」の時代のようで侘しい。

 この騒ぎで一番喜んでいるのは国会では野党、都のレベルで小池知事ではないか。特に小池知事は「開催都市の長として残念に思う」とくりかえし、IOCと日本側との4者会談を欠席すると発言した。森さんを突き放したが、これも辞任の意向の一つの動機となっている。

 知事は劇場型のパフォーマンスが得意だ。かつては自民党都連との対立構造を作り、「都民ファーストの会」を立ち上げ、小池ブームを作って大勝した。

 都議選挙、衆議院選挙を前に、森叩きを演出し、批判をもとに対立構造を明らかにし、これを選挙戦術としているのではないか。

 千代田区長選挙で街頭演説を行い大勢の聴衆を集めて勝利した。コロナ対策で「密を避けてください」と連日東京都のコマーシャルで訴えた知事、矛盾しているのだが一向にかまわない。

 小池知事のこうした矛盾も含めて、都民に正しい判断をしてもらうよう全力を挙げることが大事だと思う。

 「森さん、本当にご苦労様でした。どうか体を大切に過ごしてください。」と、今はそれしか言う言葉が見当たらない。