第792回「明暗様々」

 深谷隆司の言いたい放題第792回

 「明暗様々」 

 横綱稀勢の里が引退した。平成29年、実に19年ぶりに日本人出身力士として横綱になり、多くの期待を担ったが、次の場所で左胸に大きな怪我を負った。それでも強行出場して逆転連勝を果たして大喝采を浴びた。しかし、治りきらないまま次の本場所に臨み、悪化させては再び休むという悪循環となった。

 取り口は真摯、不器用だが真っ向勝負が常だった。勝っても驕る素振りは全くなく、静かに勝ち名乗りを受け引き揚げて行く姿に、武士道の「惻隠の情」「抑制の美学」があった。

 8場所連続休場でなく、もっと早く引退すべきだったという声もある。いや最後まで闘った事がよかったと言う人もいる。ここは議論のあるところだ。

 自分が政界引退した時のことを思い出す。あの時の私の思いは「花は愛惜に散る」であった。

 実は15日、私は土俵下の「溜まり」に座っていた。テレビで一番よく映る場所でいつも多くの人から連絡が入る。東京場所の時は一度だけ座ることにしているが、この日は栃煌山との戦いを目の前で見ることになった。もはや横綱の力は全くなく相撲の取れる状況ではなかった。

 負けて私のすぐ二人隣に座ったが、目を閉じてしばらくすると静かに何度もうなずいていた。もしかしたら奇しくもこれが最後の勝負になったかと思い、帰宅して家族に語ったが、まさにその通りになった。

 年寄り「荒磯」になる。今後は弟子たちを怪我のない強い力士に育て、是非日本人横綱を生み出して欲しいと、ねぎらいと感謝の心を込めて祈っている。


 私に長年タップを教えてきたJAM TAP DANCE COMPANYの加藤邦保、保土塚千春両君が、念願のスペシャルタップショーを池袋の「あうるすぽっと」で1月17日から4日間開催した。

 日本のトップクラスのタップダンサーが勢ぞろい、生バンドを背景に見事な踊りを披露、満員盛況の観客は大喝采を送った。

 元来タップはマイナーで、あまり脚光を浴びる機会がない。しかし彼等は必死になって技を磨き努力を続けている。

 娘恵理の成人式にタップを披露してみんなを驚かせようとしたのが彼等との縁の始まりで、以来、30年以上、今は孫安希与と折りあるごとに彼等の指導でタップを練習している。

 彼等は何度も挫折し、1年半ばかり私の事務所を練習場としたこともあった。

 ある時、彼等に色紙を頼まれ、私は「夢を求めて生きることの楽しさよ」と書いた。この言葉が彼等の大きな励みとなって、今回の大会につながったと言う。なんとこの大会のタイトルはこの言葉であった。

 華やかな見事な舞台を見つめながら、過ぎ去った思い出を噛みしめ、思わず目頭を熱くした。「努力した者が報われる」、そんな世の中であって欲しいとしみじみ思うのであった。