第435回「大学での講義内容」(1)

 深谷骼iの言いたい放題第435回
 「大学での講義内容」(1

 大阪経済大学 「通商分野の政治課題」
 通商産業省(現経済産業省)の仕事は、1.国内の産業振興、経済発展と安定 2.海外経済関係の円滑な発展 3.外局として中小企業庁、資源エネルギー庁、特許庁の夫々に託された仕事である。
 私が2000年、通産大臣に任命された時、小渕総理から特に中小企業問題の解決の為に尽力して欲しいとの強い要請があった。
 いわゆる中小企業は430万社、日本の企業の99.7%を占め、雇用は7割、約2800万人の人が働いている。いわば日本経済の基盤ともいうべき存在だが、決して恵まれてはいない。しかも、当時、銀行などから厳しい貸し渋りにあって塗炭の苦しみに喘いでいた。
 そこで私は、まず、中小企業基本法を36年ぶりに改正し、自立を促すと共に、総務会長時代に作っていた中小企業金融安定化特別保証制度に、臨時特例の処置として10兆円上乗せし、総額30兆円の融資を実施した。あわせて全国的にフーラムやシンポジウムを開き、自ら乗り込んで啓蒙宣伝、理解の徹底を図った。参加者は実に17万人に及んだ。
 中小企業の明暗として、完成して1年になる東京スカイツリーの例を挙げた。
此処には「東京ソラマチ」なる大店舗が併設されている。
 唯一沖縄から出店しているのは「塩屋」という、いわゆる中小企業だ。沖縄の70種類の塩と、国内外の500もの種類の塩を集めた専門店で、その発想のユニークさ、オリジナル商品が大いに受けて、今や売り上げ3億円だったの13億円に、従業員も50人が145人に増え、益々発展しているのである。
 一方、元気が無いのが周辺の商店街だ。完成までの間は、物珍しさで観光客まで押し寄せて写真を撮りまくり、建設作業員も多く、更にマスコミが毎日訪れ報道し大賑わい、完成したらもっとよくなると「とらぬ狸の何とやら」であった。
 ところが完成すると、飲食店から土産店、アパレル、惣菜店、スーパーまで312店が入った「ソラマチ」にすっかり客を奪われ、閑古鳥が鳴く激減ぶりとなってしまったのである。
 観光客が求めるものは本来、普段見ない、味わえないもの、つまり「非日常」なのだが、そこに気付いていなかったのである。狭い商圏で、そこに住む人だけを相手にしてきた。品揃えも悪く、愛想もあまり良いとは言えない。つまり昔ながらの商売では観光客は取り込めない。時代の変化に合わせて自ら変わることが出来ていないのだ。商店街も、政治の世界と同じように感性のある若い人たちと交代しなければならない時代なのである。
 墨田区にも問題は多い。ここは元々「ものづくりの街」で小さな工場等が多い、その面で注目されている区である。今、もっとも大事で期待されているのは、日本の「ものづくり技術」ではないか彼らをいかに伸ばすかこそ、墨田区にとって重要な課題なのだ。ホテルなど3つしかないのに、観光客などを見込んで、経済効果880億円などと計算し、自ら浮かれている。観光客の捨てたごみ処理や、夜騒ぐ悪童連中の為に警備員を雇い、なんと補正予算3900万円を組む始末だ。
 一番儲かっているのは東武鉄道だけ、彼等は地元の発展など考えていない。法人税も、固定資産税も特別区だからみんな東京都に取られて墨田区には一銭も入ってこないのだ。
 東武鉄道の1年の純利益200億円と見込まれている。建設費は約1000億円だから、5年でペイし、後は儲けるだけ、ついこの間、経常利益71%増と発表したばかりなのである。

 通商問題の一つが自由貿易協定だが、私は第3WTO(世界貿易機関 )閣僚会議でシアトルに赴いた。当時、アメリカはアンチダンピング(自国より不当に安く輸出した場合の制裁措置)でしばしば日本を提訴し、その為に日本の鉄鋼業など苦労の連続であった。中国も乱発の気配で、やがてアメリカも困る時が来る。だからこの制度の濫用を防止する為に、規律の強化、見直しを図るべきというのが日本の主張であった。
 カナダのペティグリー大臣等とのバイ会談を重ね、大勢の支持を得た私は主張通りのテキスト案を作ることに成功した。ところがアメリカは執拗に反対を続け、ついにはクリントン大統領自ら小渕総理に電話を入れる事態になった。 
 私はあらかじめ総理に電話を入れておいたので、総理は「全て深谷大臣に任せているから」と断り、なんと2度目の電話には居留守を使って出ることもしなかった。
 河野外務大臣も相手から相当責められていた。米代表は「こんなことではクリントン大統領は沖縄に行かない」とまで言い出した。間もなく沖縄でサミットが開かれることになっていた。陪席していた私は激怒して「そんなら来なくていいと伝えてくれ」と言うと、通訳が「このまま訳していいですか」と困惑していた。強く出ると相手は慌てて「いや、別にこれは国の意思ではありません…」と弁明していた。こんなやり取りは今だから話せることだが、外交交渉というのは、まさに戦場のようなもので、自国の権益と威信を掛けて必死に戦うものなのである。
 アメリカはしたたかで、なんと突然グリーンルームで閉会を宣言し、このWTOは不調に終わり、大失敗のまま幕を閉じた。当時加盟国が135ヶ国(現在153ヶ国)もあって、しかも4分の3が開発途上国、他の問題も含めて、とても国際的合意を得るには無理があった。
 このことからWTO離れになり、FTAEPA2国間交渉または複数国との自由経済・貿易協定)が主流になっていくのである。
 いま話題のTPP(環太平洋経済連携協定)は最初4国から始まったが、2010年アメリカの主導によって急速におし進められたものである。
 日本も7月から交渉に入るが、そうなると12ヶ国になり、まとまると世界のGDP(国内総生産)の4割弱を占める巨大経済圏が出来上がる。
 目下、国内には賛否両論が渦巻いている。一応、参加したら10年後GDP3.2兆円増、農林水産業の生産額は3兆円ほど減ると政府は試算している。(この計算については、個人的に無理があると思っているが・・)
 日本が戦後の荒廃から今日の発展を遂げられたのは、GATT体制の下、自由貿易が推進されてきたおかげである。日本経済は貿易に依存しているから、これからも自由化することで、経済力の維持発展させることが出来るのだ。
 然し、いずれの国も前述のように自国の利益を必死で守ろうとしているのだから、これからの交渉もまさに戦場、命がけで臨まなければならないのである。
 TPPによって有利になる業界も不利な業界もある。国内的に考えるべきことは、不利な立場になる層を、どう救済させていくかだ。
 特に農林分野の影響が大きいと、政府は「重要5項目(米、麦、乳製品、牛肉、砂糖)」の関税は維持する方針のようである。   
 国内対策として注意すべきことは、何でもお金を出せばよいということではないことだ。
かつてウルグアイラウンドでコメの一部市場開放が決まった時、農家の再生で6兆円もの対策費を出したことがあったが、今日の姿を見るとあまり成果があったとは思えない。
 農村革命が必要なことは当然で、例えば農地の大規模化に積極的に取り組むことなど重要である。チェーン店のサイゼリアは水田に稲を植えず、土地に直接もみをまくことで、価格削減に成功している(60キロ16千円を5000円に)。農村でも生産性向上の工夫が必要なのだ。特にやる気のある若手農業者の支援育成の政策などやるべきことは多いのである。
 
 学生及び一般聴講者は1時間半、私の講義に熱心に耳を傾けてくれた。
私は実感として、長時間の熱弁で、かなりの体力を消耗したように思った。
やはり歳をとったからなのであろうか・・・。しかし、心は爽やか、充実感があふれていた。