第300号「小さな旅」

深谷隆司の言いたい放題 第300号
「小さな旅」

 随分昔から、夏は大磯ロングビーチ、冬は苗場でスキーと決まっていたが、近頃は、孫の方が学校行事で忙しく、私に付き合ってくれず、だんだん足が遠のいている。
 今年は久しぶりに、スキーに行ったが、30度のギャップで転倒して、その横を小学3年生の孫が笑って通り過ぎていった。
 自分では若さが自慢であったが、確実に足腰が弱くなっている。
 毎回、世話を焼いてくれる湯沢に住む高谷由行君から、「先生、もっと鍛え直しましょう」と言われて、その後、奮起しているが、今年の冬までには、なんとか孫をびっくりさせる、往年のスキーのように華麗な?滑りを見せたいと思っている。

 その高谷君に誘われて4月22日、双方の妻も一緒に、4人で1泊の小さな旅をした.
 新潟県松之山温泉は、上野から新幹線で湯沢駅まで1時間余り、そこから車で40分程度、こんな近くに素敵な田舎があるなんてと、感激しきりであった。

 ここは草津、道後に次いで日本3大薬湯で、大伴家持、上杉謙信の隠湯とか・・・
 豪雪地帯で昨年など4メートルの積雪であったという。
 雪といえば都会の人間から見れば、ロマンチックで美しい世界だが、地元の人達から見れば、想像を絶する苦労の種のようである。今年も各所の豪雪で、雪下ろしや除雪作業中に何人もの人が亡くなっている。
 温泉への道すがら、まだ残雪を排除する為に何台ものトラクターが活動していた。その費用と労力は大変なものであろうと想像できる。
 しかし、すべての主要な生活道路は、降雪と同時に除雪されて、常に整備されるという。地方の力は素晴らしいが、未だに、各所に「田中道路」といった通称がついている。
 かの田中角栄元首相が作ってくれたということなのだ。この厳しい環境の中から躍り出て、天下を握った角栄氏の面影を思い出し、「大したものだ」と改めて感無量の思いを抱くのであった。

 ひなびた宿「千歳」は、もちろん温泉が素晴らしい。ナトリュウム、カルシウム塩化物泉だから、少し「しょっぱい」が、なんと1200万年前、太古の海が閉ざされ、今、噴出しているのである。
 夕食は新潟牛のステーキ以外は、ほとんど山采類でヘルシーだが、酒が美味く、飲み過ぎて、トータルすればカロリーオーバーだった。
 考えてみれば、今年のスキーは八海山スキー場で、以来すっかり日本酒、それも「八海山」好みで明け暮れて、夫婦ともに体重増加の傾向にあった。
 限られた人生、あと幾らも残っていないのだから「まあ、いいか」と言うと、高谷君、「駄目です。みんなの事を考えて、あと20年は生きてください。これから、私が厳しくトレーニングを指導します」。

 朝食は特に自慢で、「とろろの朝まんま」、「里山のっぺ」と、どれも美味だ。「みらい納豆」は塩で食べるが、ご飯は丹精込めた棚田米、さすが本物のコシヒカリだから、「もう堪らない」といったとこらであった。

 旅の途中で寄った魚沼の禅寺、西福寺と開山堂は見応えがあった。
 天井に「道元禅師猛虎調伏」が見事に彫られている。幕末の名匠石川雲蝶の終生の大作だ。迫力ある透かし彫り、岩絵の具で色鮮やかに塗り上げられ、まさに安政年間の華やかさがそのまま伝わってくるようであった。日光東照宮にも劣らないことから「越後日光開山堂」とも呼ばれている。
 此処の檀家は豊かで、生活の面倒を全てみるということで江戸から雲蝶を招いた。嘘か本当かわからないが、特に酒と女(女房)を保証したというから、いかにも田舎のお金持ちの発想らしくて面白い。
 
 帰途、高谷君の家に寄ったが、10年以上前、ここに泊ったこともある。よその家に泊まるなどということは全くないのだが、ここは例外中の例外で、居心地がよかったことを覚えている。
 彼は長年勤めたプリンスホテルを退職したばかりだ。その支配人を務めていたことから親しくなったのだが、もう30年もの長いつき合いになる。
 子供がいないこともあって、本当に優雅な暮らしで、音響効果抜群の部屋でクラシック音楽を聴いたり、コヒーや紅茶を自分流にブレンドして味わったりしている。
 年金は少ないが、湯沢で暮らす限りは何の不自由も無いと言う。
 「先生も無駄なお金を使わずに、老後に備えて、もっとつましくしないと・・・」。
 なんだか息子に説教されているようだったが、心楽しい響きであった。

 この27日には、大阪の関西大学の講義がある。元NHKの政治部記者で、私の番記者であった秋田君が同行してくれることになっている。
 彼も、NHK関連会社の社長などを務め、定年退職したばかりである。皆60歳そこそこで、まだ十分働けるのに惜しい。
 拙著「道のり はるか」でも書いているが、高齢化高齢化といって追い出し、まだまだ十分に働ける人材を、あたら無駄にしている現状は間違っている。経験豊富で、十分に働く意欲を持つ人々を、国力として使わないことは、国家の損失ではないか。
 と、まあ、言いたいところだが、退職した良い仲間が、私を大事にしてくれるのだから、私にとってありがたいことではある。

 これからも、時々、女房共々良き仲間と、小さい旅をしたいものである。
 その為には身体を鍛え、無駄を省き、か・・・・。