第243号 「外交で通用しない『言葉のごまかし』」

深谷隆司の言いたい放題 第243号
「外交で通用しない『言葉のごまかし』」

 国際会議に出席した折の、野田総理の自信の無さ気な表情はどうだろうか。
 折角、TPPの会議でオバマ大統領の隣に座りながら、一言もないどころか、話しかけられたらどうしようかと、ハラハラしている姿が見え見えで寂しい。
 英語が出来ないことに引け目を感じているのかもしれないが、そんなことを気にする必要はない。英語は一見、世界共通のものと思われているが、国によっては、むしろ嫌ってわざと使わないところさえある。
 正式な会議の時はむしろ優れた通訳を入れた方が間違いない。
 私の場合、いつも超ベテランの女性の通訳がいて、私が普通に日本語で話すのを見事に同時通訳してくれた。しまいには、直接話しているような錯覚に陥るような塩梅であった。
 個人的な対話が必要な時は、あらかじめ簡単な会話の中身を想定して準備したものだが、それで立派に通用して、色々な国の大臣達と親しくなったものである。
 一応、大学を出ているのだから、季節の挨拶や日常の話をするぐらいの英語は、あらかじめ用意しておけば、そんなに難しいことでは無い筈なのだ。
 私は、5つの大臣をやって、随分世界の会議、ひのき舞台に立ってきたが、根が厚かましいのか、それほど困ったという記憶はない。

 問題は、英語で語る前に、何を伝えようとしているのか、日本語で正しく内容を言えるのかということなのだ。もっと言えば、きちんとした中身を自身で持っているのかが何よりも肝要なのである。
 思想も哲学も、まして、確信のもてる政策も無しに、世界の舞台で国益を掛けて議論をすることなど、到底出来よう筈もないのである。

 野田総理の自信の無さは、そこから来ていると私は思う。
 本来ならTPP 参加表明をする以上、自身が所属する党内を説得し、まとめていなければならない。国会であらゆる情報を開示して、議論を尽くして、満場一致は無理だけれど、せめて大方のコンセンサスを作っていなければならない。
 ところが、民主党内の説得も党執行部に丸投げして、自分で少しも汗を流そうとしない。これではまとまるものもまとまらないし、まして野党が納得しないのは当然である。
 国内世論も、やや参加賛成派が多いとはいうものの、賛否両論で大騒ぎである。
 TPPのような仕組みに参加しようと思えば、それぞれの立場によってプラスとマイナスの両面がある。それを冷静に秤にかけて、やっぱり日本の国益にとって必要だと確信したら、堂々と国民に訴えていけばいい。
 そして何よりも大事なことは、マイナスの部分をどのようにして補うのか、具体的に提案し、説得していくことなのだ。そうした議論は今までほとんど皆無と言っていい状態ではなかったか。

 野田総理の一番悪い点は、いたずらに言葉でごまかそうとすることだ。
 総理は「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と言ったが、肝心の「基本方針(参加表明する)に基づく」という言葉は省かれている。反対派を刺激しないという狙いは目白だ。結局、何を言っているのか分からない。
 賛成派は「交渉参加」と受け止め、反対派は「これで歯止めが出来た」と喜んでいる。
 15日の参議院予算委員会で、自民党の山本一太氏が「鹿野農水大臣はどう受けと止めているか」と問うたのに対し、「参加しないということ」と答え、「内閣不一致だ」と責められていた。

 12日に行われたオバマ大統領とのハワイ会談でのやり取りでも、認識のずれがあって大問題になっている。
 オバマ大統領は「すべての物品やサービスを貿易自由化の交渉テーブルにのせるとの野田総理の発言を歓迎した」と発表した。しかし、日本側はそんなことは言っていないと反論したのである。
 野田総理は「重要品目に配慮しつつ、全ての品目やサービスを自由化の対象にする」と語ったのだが、「重要品目に配慮しつつ」は国内の反対派向け、後半がアメリカ向けと、玉虫色にしているのである。
 本来、TPPの原則は例外なき貿易自由化だし、オバマ大統領としては日本の前向きの姿勢をアピールしたかったのであろうが、いずれにしても国際社会では、日本的な言葉のごまかしは通用しないということなのである。

 国際社会は、日本の参加表明と受け止めて、TPPに対して新たな動きが出始めている。
 すなわち、カナダ、メキシコが参加の姿勢を示し、フィリピンやパプアニュギニアなども手を挙げそうだ。
 カナダ、メキシコが加わると、国民総生産で世界経済の40%に及ぶというのだから、巨大経済圏が出来上がることになる。
 オバマ大統領は、「アジア太平洋地域だけでなく、世界全体のモデルになり得る」と喜んでいる。
 日本に対する世界の評価がいかに高いかということだが、それだけに責任は重大である。
 むしろ日本が中心になって、新たなルールづくりをする最大のチャンスが訪れたということではないか。
 この際、二枚舌などと言われないように、しっかり前向きで対応しなければならない。

 問題は、日本に、いや野田総理にそれだけの外交的実行力と能力があるかという点だ。
 残念だが、それはとても無理な話で、ここに日本の悲劇があるといったら言い過ぎであろうか。