深谷隆司の言いたい放題 第238号
「為替介入の効果は?」

 元NHKの記者で、財務大臣になった安住淳氏、記者に向かって「お前ら」などと呼び捨てたり、様々な場面で高慢な発言で、その生意気ぶりが批判されていた。
 テレビを見ていたら、彼が出ていて、「必要があれば断固たる処置をとる」となんとも強気な発言を繰り返していた。急激な円高に対しての発言だが、これは市場に向けての、いわゆる「口先介入」であった。
 しかし、そんなことで円高が止まるわけもなく、逆に戦後初の1ドル75円に迫る勢いになってしまった。
 口先だけで行動に出ないから、かえって介入時の円売りを見越した円買いを呼んでしまったとの批判も起こった。
 27日には日本銀行が、円安を促す追加の金融緩和を決めた。しかし、これもさっぱり効果が無くて、ついに、10月31日、政府・日本銀行による「円売りドル買い」の本格的な為替介入に踏み切ることになった。これで今年3度目になるが、過去最大のものである。
 安住大臣の強い意志によると、わざわざ財務省はそんな話まで漏らしている。まあ、長い政治家歴の私から見れば、こんな話が流れると、かえってこれは財務省主導のシナリオだなと憶測したくなる。

 今回の介入の規模は8兆円に上るとみられているが、果たしてどのような効果になるのか、率直にいって私は、投機筋に対する牽制にはなるが、やっぱり時間稼ぎ、長続きしないと思う。
 実際に、一時79円台半ばになった円相場は、その日のうちに77円台まで戻っている。
 円高を止めるには日本だけの単独介入ではとても無理で、各国の協力がなければならない。この夏からの超円高は、欧米の政府債務(借金)問題や、世界的な景気減速への懸念が強まっていること等が原因だからである。
 意外なことだが、海外のもうけを円に換えたがっている日本企業が多い為、大規模な介入をしないと円高を食い止められないという一面もある。
 いずれにしても、3、4日に仏カンヌで開かれる主要20ヵ国・地域の首脳会議(G20サミット)で、日本の為替介入について各国にしっかり理解させ、為替相場の急な動きに歯止めを掛けようという考えを、首脳宣言に盛り込ませることが重要になってくる。

 円高は日本の企業に大きな影響を与えている。一般に輸入関係は円高がプラスと考えられがちだが、必ずしもそうではない。
 例えば、原料を輸入している鉄鋼業界も、商売相手は自動車や電機メーカーだから、当然悪影響が出てもおかしくない
 トヨタ自動車や日産自動車は、現地生産や安い海外部品の輸入を現に増やそうとしている。そのしわ寄せは大手を支える中小メーカーに向かう。
 現地生産となれば、空洞化が進み、工場が減る。雇用が失われれば内需が冷え込んでいく。
 円高の構造的要因がデフレだから、その克服を急げという声も強い。
 安住財務大臣の「断固やる」ということは、これら諸問題に手を打つということで、並大抵のことでは無い。経済や財政問題にいかにも素人の彼に、どこまで出来るのか、あまり信用できないと思うのは私一人ではないと思う。

 過日の講演の時、「為替介入で使うお金は税金ですか」と言う質問があった。ここで為替介入の仕組みについて、少し、触れておきたい。
 為替介入は、まず国(財務省)の指示で、日銀が円資金を立て替えて円を売りドルを買う。その後、財務省は国債の一種である「政府短期証券」を発行して金融機関などの投資家から円資金を集め、日銀に返す。だから税金を使うことはない。
 いわば投資家から集めた円資金でドルを買うのだが、このドルは国の一般会計とは別の「外国為替資金特別会計」に入れる。ドルは主に米国債などで持ち、だから当然国の資産となる。つまり借金はするが、それに見合う財産は持っているということだ。
 ただ、今のように円高が続くと、米国債の価値は円換算すれば目減りは広がり、財産が借金より少なくなる。最近の含み損は約40兆円に膨れ上がっている。

 短期証券について言えば、文字どうり短期だから、すぐに返済期限が来る。そこで返済のために新たな短期証券を発行し、借り換えを繰り返すことになる。
 前述のよに様々なリスクも伴うから、介入は無制限に出来るわけではなく、短期証券の発行枠は予算で決められている。今年度第3次補正予算案で、発行枠は46兆円にすることになっている。(15兆円増加)

 それにしても、世界の経済は混乱している。最大の危機は欧州だ。
 財政上破綻をきたしているギリシャ、なんとかこれを救おうとユーロ圏各国の支援策が示されたが、これを受け入れるかどうかの国民投票をするとパパンドレウ首相が表明したのだ。
 緊縮財政が続き国民は悲鳴を上げ、連日抗議のデモやストが頻発し大騒ぎである。国民投票でお墨付きを得て、緊縮財政などを強行しようとの考えだが、もし否決となったら欧州の解決策の前提は全て崩れてしまう。
否決になれば国家破綻(債務不履行=デフォルト)、ユーロ圏からの離脱にもつながりかねない。

 2009年末にギリシャの財政危機が分かったのだが、その時、野党として緊縮政策を批判していたのが今の与党だ。自分たちが政権の座に着いても、やっぱり緊縮策をとったのだから国民は「こんな筈では無かった」と不満が爆発したのだ。どこかの国とそっくりではないか。

 前述のように、G20サミットの直前のギリシャの決定は、またもや大きな影を落とした。
 サミットの最も重要な議題が欧州危機問題だから、果たして日本の円高問題がどこまで十分に議論されるのか。
 円高が「震災復興の妨げになっている」ことも含めて、各国首脳にしっかり理解させなければならない。

 ああ、こんな時こそ、経験豊富な人材を擁する自民党の活躍が必要なのに、と思えてならない。
 「切歯扼腕」とは、まさに今の私の心境を言うのである。