民主党内部で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をめぐって揉めている。しかし、一般国民でTPPといってもよく分かる人は少ないのではないか。
 政府はもっと国民が理解できるように努力しなければならないと思う。
 民主党内部の議論を聞いていても、大局的な立場からの議論と言うよりも、関連業界の既得権を守ることばかりが先行しているように思えてならない。 いわゆる「族議員」の暗躍である。

 この際、改めて私見を交えてTPPを考え、整理してみたい。

 最初は4か国加盟で発効した経済連携協定であったが、2010年、アメリカ主導のもとに急速に推し進められるようになり、2011年のAPECまでの妥結を目指している。
 2015年までに加盟国間の貿易において、工業品、農業品、知的財産権、労働規制、金融、医療サービスなどをはじめ、全品目の関税を10年以内に原則全面撤廃する。その事によって貿易や投資がしやすい環境が生まれる。いわゆる貿易の自由化を実現しようとするものである。

 折から、米議会は10月13日、韓国との自由貿易協定(FTA)法案を可決した。両国が目指す来年1月の発行に一歩近づいたのだが、これが実現すると、関税の原則撤廃など米韓貿易の障害が少なくなり、輸出入が活発になる。
 日本メーカーは、米国市場への乗用車やテレビなどの輸出で韓国勢としのぎを削っている。このままだと米韓の関税が無くなるのだから、日本は太刀打ちできなくなる。
 韓国は欧州連合(EU)とも、この7月にはFTAを発効させている。(注・米国は乗用車に2・5%、トラックに25%の関税。EUは乗用車10%、薄型テレビ14%の関税)。
 当然、韓国内にも反対の動きはあるが、貿易立国を模索する韓国は、より積極的になりつつある。
 日本の産業界は危機感を強めており、欧米や欧米とFTAを結ぶ地域から輸出した方が当然コストを抑えられるから、工場移転に拍車がかかり、日本の産業空洞化が一層深刻な問題になると指摘している。いずれにしても、このままでは日本は後れを取るばかりである。

 ちなみに、TPP加盟国、交渉国に日本を加えた10か国のGDP(国内総生産)を比較すると、アメリカと日本の2ヵ国だけで90%を占める。だから、実質、日米FTAとなり、日本の参加が実現すれば、韓国と一気に同列に並ぶことになる。
 少子化で国内市場が縮小するなか、成長著しいアジア太平洋地域と経済連携を深めることは欠かせないことだが、日本の動きは鈍い。

 TPPへの参加でのデメリットもある。ただし、誤解も多いいようだ。
 日本医師会は、TPP参加に伴う規制緩和で、国内の制度が崩壊すると懸念を表明したが、営利企業の医療参入や、公的な医療保険制度はTPPでは議論の対象になっていない。
 又、単純労働者の海外からの大量流入を心配する人もいたようだが、出張で短期間滞在するビジネスマンが、域内を自由に行き来できるよう、商用ビザの発給条件の緩和が中心で、定住前提の労働者受入れの話は全くない。
 色々な分野で、影響を受けるのではないかと心配するむきもあるが、政府はもっと丁寧に説明していく必要があるのではないか。

 なんといっても一番影響を受けるのは農業分野である。加盟に伴う関税撤廃で農家が打撃を受けることは確かだ。
 野田政権では、この為に農業再生計画をまとめた。
 しかし、その内容を見ると、TPP反対派を懐柔するための新たなバラマキといった感がぬぐいきれない。
 第一、コメの生産量を事前に調整する減反や、減反への参加を前提に、所得と生産費の差額を補填する、あの問題の「戸別所得補償」はそのままになっているではないか

 再生計画では、離農した農家が農地を売ったり貸したりする場合、新たに奨励金を支払うという。農家一戸当たりの農地面積を現在の10倍以上の20ヘクタール~30ヘクタールに拡大し、収益力を強めるためだという。
 規模を拡大しようとする農家に助成金を支払う制度はすでにある。
 しかし、お金さえ出せば何とかなるという判断では、うまくいかないということは立証済みではなかったか。
 かつて、平成五年、コメの一部市場開放が決まったウルグァイランド(多角的貿易交渉)合意の時、農業の再生と称して、実に6兆円もの対策費を出したが、ほとんど成果は上がらなかった。 バラまきでは農家は決して強くならないのである。

 強い農業を育てようとせず、護送船団方式を続ける農協の傘の下に安住するような政策は、もう改めるべきだ。
 まず、減反政策を辞めるべきではないか。
 コメの生産を自由にして米価を市場に委ねれば価格は下がる。日本のコメは高すぎる。また、地代の方が得だと思えば、兼業農家は農地を専業農家に貸すようになる。
 ある新しい農業経営を目指している若き旗手は、「自由貿易など恐るるに足らず」と言っていた。この人は野菜の冷凍や加工、直売、通販など、いわゆる[6次産業化]を目指している。
 これからは、このような元気な人や、やる気のある農業法人を積極的に育てることを考えるべきではないか。あるいは意欲的専業農家に限って所得補償していく制度に切り替えてもいい。そうすれば効果も上がるし、財政支出も抑えられるはずだ。

 あらゆる可能な、有効な国内対策に手を打ちつつ、世界の流れから後れをとらないようにする、これこそ、いま政治に求められている要諦なのである。