日本画界の中核、気鋭の画家といわれる中野嘉之氏の個展が、9月20日まで日本橋高島屋で開かれている。
 中野氏は箱根に立派な別荘兼アトリエを持っていて、私の山荘も近いので、度々お邪魔する。
 私も昔から絵が好きで、二科展10回入選が少しばかり自慢だが、中野氏のこのアトリエで、御一緒に何度も絵を描いた。これだけの大家なのに、私が絵を描きたいとあらかじめ連絡しておくと、なんとにかわを溶いて待ってくれるのだ。
 私の自宅玄関にある100号の日本画は、箱根の山上で、急激に移り変わる雲と、悠然とある月をテーマに描いたものだが、先生と酒を酌み交わしながら描いたものである。
 自分では不肖の弟子のつもりなのだが・・・。

 中野氏の今回の個展のテーマは、表題の「天 空 水」で静、動、映、揺を主体に、そこから生まれる天空水の流転を探り描こうというもので、その中心に「竜」を置いている。
 中央の襖絵の大画面(縦2m、横13.2m)が「双竜図」で、双竜がまさに水中から世に出ようと荒れ狂うばかりの迫力だ。彼が自ら書かれた文章にあるように、「一瞬のかすかな風と静止した空気感」が伝わってくる。
 実は私も通産大臣時代、竜を描いて三越の吉書展に出したことがある。
 「或いは踊って淵にあり」と添え書きを加えたが、深い淵で満を持していた竜が、まさにいよいよ天空に躍り出ようとしている図で、いわば当時の政治家としての私の心意気を表現したものであった。
 中野氏の絵とは勿論比較にならないが、この私の絵にはその後、いろいろなドラマがあった。私にとっては想い出に残る作品で、風呂敷に染めて、多くの人に配ったものである。

 京都の妙心寺の天井には、狩野探幽の雲龍図が描かれていて、私は何度も訪れたものだ。龍は実在せず、まさに想像の世界の神獣で、角は鹿、頭は駱駝、目は鬼などといわれている。さすが探幽の作品はその構図や重厚なタッチで目を奪われる。
 しかし、近年は案内人の説明も次第に通俗になって、余りに観光客向けで白々しく、私はどうも気に入らない。
 それに比べて、中野氏の今回の作品は、はるかに雄大で静と動が躍動していて、迫力がある。
 隅の方に数羽の鳥が描かれている。多分中野氏の好きな鴫(しぎ)ではないかと思うが、鬼気迫る双竜や、激しく移り変わる自然の荒々しい動きの中でむしろ無関心気に、平然と靜にたたずんでいる。
 その対比が素晴らしく、見るものを幽玄の世界に誘ってくれる。
 せっかくの芸術的大作が、これからどうなるのか、その行方が気がかりであった。
 どこか、妙心寺ではないが、立派な寺社で引き受けてくれないものか。この見事な絵を、なんとか後世の人々の為に伝えてくれないものかと思案している。
 この個展は、9月28日から10月4日まで高島屋京都店、10月19日から25日まで高島屋横浜店、11月16日から22日まで高島屋新宿店、11月7日から13日まで高島屋大阪店、最後は12月21日から31日までジェイアール名古屋タカシマヤと続く。多くの人々に見て欲しいものである。


食べある記

 この日、丁度、奥さんも同席していたので、私の女房と4人で夕食を取ることになった。場所は、ホテルニューオータニタワー入り口前を入った赤坂維新號(紀尾井町1−11 ℡3261-2213)、ここは私の知人が経営している有名店で、特にフカヒレが絶品と大評判である。
 少しお高い値段だから、私も度々行けるわけではない。
 フカヒレだけで大13,650円する。
 この夜は、前菜、海鮮料理、北京ダック、豚肉料理、その他に小品をいくつかとって、麺とデザートでしめる。生ビール4杯、陳酒ボトル2本をあけて、1人2万円超だ。
 だが、内容と値段は全くマッチしていて、舌鼓を打ち、「来てよかった」となる。
 他の外食を少し我慢して、また行きたいと思うのだから、さすがである。
 美酒美食で中野氏を中心に談論風発。
 丁度日本バッシングの最中、中国の現地で宴会中、日本への批判が少しでも出るや、憤然と席を立った話など、氏の面目躍如たるものがあった。
 心も胃もすっかり満足し、本当に楽しい一日であった。