今、イギリスはロンドン暴動が拡大して大変な騒ぎになっている。店舗での略奪、車への放火が続き、9日には市北部のソニーの倉庫も襲われて出火した。
 五輪開催まで1年を切っているのに、こんな状態で大丈夫かとの懸念が世界中に広がっている。
 私もイギリスには公私を含めて何度も行っているが、さすが紳士の国といつも親しみを持っていた。
 テレビに映る放火略奪の限りを尽くす若者達の姿を見ると、あの素敵な雰囲気は何処に行ってしまったのかと思う。霧のロンドンは放火の煙のロンドンになってしまっているのである。

 事の起こりは、ロンドン北部トットナムで29歳の黒人男性が警察官に射殺されたことからで、人種差別との抗議活動が暴徒化してしまったのだ。
 1980年、ロンドンで黒人暴動が発生したことがある。また、2000年以降移民問題での暴動が相次いだ。
 実は、イギリスには移民や人種、貧困といった、我々がいつも抱いているイメージと異なる部分も多いのである。それでもロンドンでは今回のような大きな暴動には至らなかった。

 私は、この暴動の背景にはイギリスの厳しい経済情勢があるとみている。
 まさに現在の欧米を中心とする金融危機が追い打ちをかけたと言っていい。
 昨年、イギリスではキャメロン政権が誕生したが、彼が進めたのが財政再建のための歳出削減と増税であった。保守党主導の連立政権は消費税を上げ、社会福祉や地方予算を削った。思い切った引き締めはあらゆるところでしわよせとなる。
 それでなくても若年層の失業率は極めて高い。全体の失業率は7.7%だが24歳以下でいえば20%近いという。雇用の危機は若者にとっては深刻な不安と不満をもたらした。
 若者向けのスポーツ文化活動の補助金も歳出削減でカットされた。学費の値上がりもあった。こうしたことが若者の心にマグマのように蓄積され、やり場のない不満となって、このような形で爆発したのではないか。

 更に注目しなければならないのが、ツイッターなどソーシャルメディアの急激な普及である。暴動の呼びかけが、いたずらもふくめて飛び交ったという。
 あの中国でも、過日の列車事故の折、各所で激しい抗議デモが起きたが、ネットを通じての呼びかけが原動力になっている。共産党独裁の中国では、当局の厳しい弾圧でなんとかおさまっているようだ。
 イギリスでも「ツイッターなどで扇動した者は逮捕する」と警告したが、果たしてどれほどの効果になるのか。
 イタリヤで休暇中のキャメロン首相は急遽帰国して、警察官の大動員等あらゆる手段を使って鎮圧すると言ってはいるが、一体どこまで抑えられるのか。
 中国のような独裁国家ならどんな極端な制圧も、いや弾圧さえ出来るが、イギリスのような民主主義国家ではなかなか思うようにことは進まない。

 余談になるが、例えば、今、米欧の政府債務問題から世界中が経済危機に陥っている。どうやったらこの危機を乗り越えられるのだろうか。
 私は、即効薬はなく、米欧各国が地道に歳出を減らし、必要なら増税もして財政再建をするしかないと思っている。
 但し、これを一気に行えば景気はかえって悪くなり逆効果になる。
 財政再建の道筋を中長期的にきちんと立案提示して、これを具体的に実行に移していくことが肝要だ。公表された計画を、速やかに、そして着実に実行に移す、その積み重ね、不断の努力で市場にも安心感が広がるのだ。
 民主主義国家の弱点は、国民に負担増を求めにくく、ともすると逡巡してしまうことである。
 国民の嫌がることは出来るだけ避けようとする傾向が強いのだ。しかし、自国にとって、そして世界にとって、これが是非必要と思われるときには、勇敢に決断実行しなければならないのだ。

 さて、キャメロン首相、この暴動を抑える為にどう決断実行するのか、注目して見つめなければならないと思う。
 
 過去の経験から、日本ではあのような略奪、暴動は起こりえないと対岸の火事と軽く考える人が多い。しかし、そんな簡単に判断してはならないと思う。
 東北大震災、原発による放射能、風評被害、それに今回の世界的経済危機の影響で、株価下落、円高など様々な問題が日本列島を覆っている。
 政治や政治家に対するやりきれないほどの不満、失望、怒り・・・、そんなことが国民の間に蔓延し、沸騰点に達しようとしているのが今の日本の現状ではないか。
 おまけに大変なネットの普及だ。
 イギリスと、さして変わらないような環境や条件がそろっているといっても過言ではない。

 かの国の暴動を、「他山の石」と真摯にとらえるべきと私は思っている。