孫の隆仁が学校に出かける朝6時半ごろになると、子犬のチコがいつも激しく吠える。私たちに教えるためなのだ。
 18日早朝、チコが吠えている。今日は休みなのにと文句を言いながら起きたら、なんと孫と女房がテレビにかじりついて、なでしこジャパンの対アメリカ戦を夢中になって観ているところだった。
 おかげで、私もあのすばらしい快挙を目の当たりにすることが出来た。あまり利口ではないチコに、今日だけは感謝、である。

 それにしても、世界の強豪相手に見事な戦いぶりであった。
 女子サッカークラブが誕生したのは45年前だ。日本女子代表が編成されたのは30年前と聞く。
 当初は、やや人気が出たものの、その後はバブル崩壊と共に地盤沈下で、企業チームは次々と撤退し、今回のなでしこジャパンの主力選手の多くが働きながら練習を続けてきた。選手220人中、サッカーで生活が成り立つのはわずか1割だという。
 よく、ボクシングや相撲でもそうだが、ハングリー精神が、強くなる秘訣と言う。日本人はすっかり豊かになって、だから弱いのだと、したり顔で言う人がいる。
 なでしこジャパンの勝利はハングリー精神か。
 私は、そうは思わない。
 彼女達の屈託のない明るさを見よ、あれは夢を追い続けることに無上の喜びを抱く、純真な姿なのだ。
 彼女達には悲壮感は無縁だ、根性論も関係ない。あるのはプレーする喜びなのだ。だから、観る者の心を奪って離さない。

 もう一つ言えば、今回の大勝利は、日本チームの「勢い」であったと思う。
 孫子の言葉に、「善く戦う者は、これを勢に求めて、人に責(もと)めず」とある。
 戦い上手は、まず組織管理より組織全体の勢いを重視する。一人一人の兵士の動きはもちろん大事だが、最後は全体の勢いが事を決するというのだ。
 体格にも優れた世界女子サッカーは、どちらかというと個人の能力に頼るスタイルと言われている。日本選手は体こそ小さいが、しっかりまとまっていて、一点取られても取り戻せるといった雰囲気が常にあった。

 2度も追いつき、ついにPK戦に臨んだが、日本選手はそこでも伸び伸びとしていて笑顔さえあった。
 一般的にPK戦の勝敗は「時の運」と言われている。
  やっぱり、なでしこジャパンの勢いこそ、世界一につながったのだと私は思っている。

 ある経済評論家は、これで1兆円の経済効果があると語った。また、マスコミは、東日本の被災者に勇気を与えたと書いている。
 それはそのとおりだとは思うが、過度な賞賛と評価だけで終わらせてほしくない。これからの日本女子サッカーをどう育てるのか、そこをもっと心配してあげるべきではないか。
 彼女たちの環境は悪すぎる。まず、練習に専念できるような応援企業が出てこないか。
 新聞の一面全部をつかって「ありがとう、なでしこジャパン」、「〇〇は日本代表を応援しています」と広告を出している企業があったが、この熱気が冷めた後も、本気で応援してもらいたいものだ。
 そして何よりも大事なことは、国がしっかり支えることだ。練習場もない状況は恥ずかしい。育成のための費用など、議会経費を少し抑えるだけで捻出可能なのだ。  

 政治不信がすっかり蔓延して、国民が夢も希望も無いと嘆いているこの時期、こんなに明るい話題を提供してくれたのだ。よほど感謝して、彼女たちの戦いのように、俊敏な対応を見せて欲しいものである。