言いたい放題 第143号 「空念仏はもうたくさんだ」

 マグニチュード9というのは世界で4番目の大地震だ。阪神淡路大震災と比べて、そのエネルギーはなんと約1000倍もあるという。
 東日本関東大震災は、これに加えて未曾有の津波に襲われたから、驚くほど巨大なものとなった。
 これは明らかに天災で、人のあらゆる力をもってしても防げるものではなかった。
 しかし、その後の経過を見ると、政府の対応は全くちぐはぐで、稚拙で、なによりも行動力が無さすぎた。それは司令塔であるべき総理をはじめ各分野での指揮官がしっかりしていなかったことが最大の原因である。
 となれば今や、天災ではなく人災と言った方が現実的である。

 最も顕著な例が、東京電力福島第1原子力発電所での菅首相の失態である。地震によって電線が切れ、津波によってディーゼルが水没して、電気系統が麻痺し、そのために原子炉は冷却機能を失ってしまった。
 原子力発電所の事故の時、まず「止める」、次に「冷やす」、そして「漏らさない」が3原則なのだが、「止める」は順調に進んだが、後は全くダメだったのである。
 菅首相は、東京工大出身を鼻にかけて、「俺は原子力の専門家だ」と豪語しているようだが、ならば最も緊迫し、早急な処置をしなければならない大地震翌日の12日、早朝、何故ヘリコプターを飛ばして現地の視察を強行したのか。今日のような悲惨な状況になるとは全く予測する知識がなかった訳で、ただのパフォーマンスで行動したに過ぎなかったのだ。
 あの時、すでに冷却不能に陥っていて、いつ爆発するかわからず、どう対応すべきか現場は大混乱であった。しかし、一国の総理の視察とあっては、直接担当者まで手を止めて説明しなければならない破目になり、この重大なロスが後の大事故につながっているといっていい。
 また、米政府が原子炉冷却の技術的な支援を申し入れてきたのに、なんとそれも断ったということが、今になって明らかになってきた。なんたることか!

 爆発や放射能漏れなど、危険な状態になっても、住民の避難範囲は当初は半径2キロ、3キロと小刻みで、後に慌てて10キロ、20キロ、最後は30キロにまで拡大していった。その度に移動を余儀なくされた住民の不安と苦痛はどんなものだったか・・・。
 一体どこが原子力の専門家だというのか。
 お粗末、ここに極めりといった状態なのだ。
 しかも、3月16日夜、菅首相は、首相官邸で会った内閣特別顧問の笹森清氏(元日本労働組合総連合会会長)に、「最悪の場合なら放射性物質の飛散により、東日本は潰れることも想定しなければならない」と語った。
 その時も、「僕はものすごく原子力に詳しいんだ」と専門家を自任し、「東京電力はそういう危機感が非常に薄い」と批判した。責任を他に押しつける姿も不愉快だ。
 これは時事通信が配信したニュースで、笹森氏自身が語ったものである。
 笹森氏といえば、連合の元会長で、いわば労働組合のドンだが、いつの間に内閣特別顧問に任命されたのか、それにしてもなんとも口の軽い御仁ではある。
 このニュースが流れるや、「ひょっとしたら専門家だから、何か具体的根拠があって言っているに違いない」と、驚き慌てた人も多かったようだ。現に私のところに真剣な問い合わせが何回もあった。
 こうなると風評の罪に問いたいくらいで、怒りさえ覚える。

 計画停電は、交通をマヒを起し、特に首都圏に大変な混乱を招いた。
 この停電を発表したのは、なんと菅首相自らで、先にも述べたが、その訴え方も妙に時代がかっていて、如何にも市民活動家といった風情で、いやしくも一国の総理たる重みや貫禄は皆無だった。
 菅首相が節電を呼びかけても、一向に国民は反応しない。それどころか17日には、逆に電力需給ギリギリまで追い込まれ、大停電の懸念を海江田経済産業大臣がテレビで訴え、再び計画停電続行を決めた。本来なら、元もと彼が前面に出て対応する筈なのに、困ると彼を出すのだからあきれるではないか。
 わざわざ担当大臣に指名した蓮舫大臣はどうしているのか。スーパーを視察して顔をしかめただけで、本来の仕事ではさっぱり活躍している様子は無い。
 ようやく通常の運行に戻っていた首都圏の鉄道各社は、再びラッシュ時の運行本数を削減するなど混乱の余波は続いた。

 天災はある意味、仕方ないところはあるが、人災だけは絶対にあってはならない。
 今からでも遅くない。菅首相はどっしりと腰を落ち着けて、あらゆる情報を集め、精査し、あるいは専門家の知恵を借り、大所高所から、決断をもってしっかりした指示を出さなければならない。
 言葉だけの「命がけ」など、そんな空念仏はもう沢山なのだ。