日本人2氏のノーベル賞が決まって、日本中が喜び、久しぶりに日本人の優秀さを改めて噛みしめた。失われつつある誇りを少し回復したといった雰囲気である。
 なにしろ、政治面や経済面、特に外交面といい、このところ日本は全く良いところ無しで、国中が自信を失い、劣等感さえ抱くといった状況であったからだ。
 今回の根岸英一氏、鈴木章氏は、共に化学賞で、炭素を効率的に結合させる為の研究の成果という。
 どちらかというと理系に弱い私だが、なんでも、金属のパラジウムを触媒として、炭素同士をつなげる画期的な合成法を編み出し、プラスチックや医薬品といった有機化合物の製造を可能にした結果とのことだ。
 例を挙げれば、鈴木氏の研究の応用で血圧降下剤を扱う製薬会社は、国内売り上げ約1400億円(薬価ベース)という。こういわれればスゴイ研究だとわかるような気がする。
 これで、日本人の受賞者は18人となった。
 かつて、私は国会でノーベル賞を得られるような人材を育てようと提言し、具体的な政策を掲げたことがあった。科学技術創造立国を掲げ、博士号取得者を任期付で1万人雇う政策がそれである。
 特に化学や技術は日本が得意とする分野で、自然科学系(医学生理学、物理学、化学)でのノーベル賞数は世界第7位になった。
 しかし、今回の受章をみても、30年以上前の業績である。今、多くの研究者が頑張っているのだが、分野によっては中国などに追い越される状況だ。
 これを機会に、国が更に人材育成、英才教育に力を入れることが大切だと思った。
 民主党のあの事業仕分け作業の時、蓮舫現大臣が、「何で一番でなければいけないの」と、あまりにも無知な発言をしたが、科学分野の若い研究者達に失望の声が広がった。
 人材育成と科学の発展にこそ、日本の未来がかかっているのである。

 2人のインタビューを見て、なんと爽やかな人達だろうと感銘を受けた。
 鈴木章氏は80歳、お酒好きの明るい性格で、これも陽気な弟さんの話によれば、学校の行き帰りも本を読みふける二宮金次郎のような人であったという。
 「理科系を学ぶ日本の若者が減っているのが大変嘆かわしい。資源のない国は、人と、その人の努力で得た知識しかない。特に理科系の発展が大事で、これから何歳まで生きられるかわからないが、若い人に役立つ仕事がしたい」と素敵な笑顔であった。
 米インディアナ州の自宅から、インタビューに応じた根岸英一氏は、私と同い年の75歳、いかにも現役の特別教授らしく、シャープで若々しい。
 2人共、ノーベル賞を受けた米国バデュー大の故ハーバート・ブラウン教授に師事した同門である。米国へ来て、「私にも起こりうる現実的な夢だ」と思っていたという。
 一番嬉しかったことは、2人とも愛妻家ということだ。鈴木夫人は、「信じられません、これから大変なことになりました」と笑顔で遠慮がちに話していた。
 根岸氏は、「半世紀前に結婚して以来、ずっと私を支えてくれた。妻と喜びを分かち合った」と語っている。
 いずれも派手なことの少ない研究者の妻として、慎ましく夫を支えて来た上品な夫人達なのだ。
 何かを勘違いして、すぐ、しゃしゃり出て、韓流スターと得意気に会食したり、亭主が総理になると直ちに本を出版して稼ぐ、どこかの夫人達とは大違いなのである。

 2人とも、受章した技術については、世界各国の研究者に自由に使って欲しいと考えて、あえて「特許」をとらなかったと語っている。
 「幅広く応用出来ると言うことが化学です。」との言葉に、なんと純粋で崇高な美しい心かと胸が熱くなった。
 しかし、後から改めて考えると、気がかりなことは、世界の現状を見ると、決してそのような悠長なことでは通用しないという点である。
 各国は、今、あらゆる分野で国益を欠けて鎬(しのぎ)を削って闘っている。国家の存亡をかけてだ。
 日本が少しでも油断していると、たちまち後塵を拝して、取り返しのつかないことになる。
 言葉は悪いが「学者バカ」といわれる。研究に没頭して世事に疎いということだが、ならば周囲が学者に代って様々な配慮をし、国益を守る為に「特許」をとる手助けをしていかなければならない。
 そして、それこそ、政治や行政の最も重要な役割ではないかと思う。
 ダブルノーベル賞に一時的に酔うばかりでなく、これを機会に日本の新たな原動力として、科学技術を積極的に生かすことを、皆で考えたいものだ。