言いたい放題 第93号 「問われる菅首相の所信表明の中味」

 臨時国会が10月1日幕を開け、菅直人首相の所信表明演説が行われた。
 ところが、なんと翌日のマスコミ各社の1面トップは、大阪地検特捜部の前部長と前副部長の逮捕一色で埋まっていた。確かに、今回のデータ改ざん事件は、検察の組織ぐるみの犯罪を思わせ、看過出来ない問題である。法と証拠に基づいて正義を貫くはずの検察が、勝手に自ら描いたストーリーに合わせて改ざんし、犯罪者を仕立てるなど許されないことだ。しかも、自分たちの体面を重んじて、隠蔽まで行うなど、絶対にあってはならないことである。
 この際、徹底的な操作と検証を行い、検察自体の解体的出直しをはからなければならない。
 しかし、だからといって、国家国民の為に開かれた国会、そして全ての舵取りを行う総理大臣の所信表明演説を、ニュースの隅に追いやってしまってよい筈がない。
 日本には大きな問題が山積している。菅内閣が、これらにどう対応するのか、今、最も大切なことではないか。
 どうせ菅総理の演説なんて、所詮口先だけのこと、大して信頼出来ないとマスコミが感じてのことかも知れぬ。
 しかし、良くも悪くもありのままを国民に伝えるのが、社会の木鐸といわれるマスコミの責任なのである。

 さて、そんな思いで、菅総理の演説をテレビで聞き、更に議事録で全文を読んでみた。
 やっぱり、どう報道してよいか、これは戸惑うかも知れないな、というのが率直な私の感想であった。
 一応、日本が抱える全ての問題点は網羅している。
 しかし、文字通り網羅しているというだけで、だからこうするのだという具体的なものはほとんど無い。要するに空虚なスローガンが並んでいるだけなのだ。
 最初に、「有言実行内閣の出発です」と宣言している。しかし、今日までの彼の言動はいつもくるくる変わるし、ちぐはぐで軽々しい。
 彼の言葉への信頼性は全く希薄で、そんなことは天下周知のことなのだ。「有害実行内閣だろ」とすぐ野次が飛んだが、なかなかな野次だ。
 雇用を増やす為に、政治が先頭に立つというが、格別具体的に道筋を示す訳でもない。
 医療、介護、子育てサービス、あるいは環境分野等で雇用を増やすというが、そんなことは何年も前から、みんなが言ってきたことで一般論に過ぎない。
 「雇用を増やせば国民全体の不安もデフレ圧力も軽減され、需要が回復し、経済が活性化する」ともいうが、そんなことは当たり前の話で、それができないから苦労しているのだ。
 財政健全化とムダの削減も強調している。しかし、本年度予算ではスタートからシーリングを外し、財政規律を無視し、その結果過去最高の予算となってしまった。しかも、税収を超える国債発行を平気で行ったが、その責任者の一人は、まぎれもなく菅氏だった。今更、財政健全化と言われても困惑するばかりだ。
 国家公務員人件費の2割削減については、「行政のプロとして、公務員諸君の心構えが問われています」と言ったが、民主党を支える労働組合の説得こそ、菅内閣に課せられた最大の課題だと私は言いたい。
 当然、議員定数削減も合わせて進めなければならないが、「徹底的に議論し、年内にとりまとめたい」で終っている。菅内閣の責任において、具体的数字を示し、削減を断行するべきだと私は思っている。それでなくても素人ばかりでろくな議員が居ないのだから・・・。
 社会保障問題に目新しい提案はなく、例の子ども手当についても、公約通り全額実施か半額か全く触れていなかった。
 外交問題には力を入れていた。しかし、「国民一人一人が自分の問題と捉え、国民全体で考える主体的で能動的な外交を展開しなければなりません」との文言は、意味不明で一体何を言いたいのかさっぱりわからない。おそらく国民に責任を転嫁しようとしているのか。
 かろうじて「尖閣諸島問題は、わが国固有の領土で、だから領土問題は存在しない」と明言した点は評価出来る。
 しかし、肝心の、今後どう中国と対応するかに触れず、「中国は国際社会の責任ある一員として、適切な役割と行動を期待します」で終ってしまった。そんな他人事では困るのだ。
 明らかな領海侵犯事件なのだから、断固抗議するべきだが、一言もなかった。まさに弱腰外交そのものではないか。

 議席数において完全なねじれ国会だから、全体的に「野党への協力お願い」が目立った。
 今国会で成立を目指す法案や条約は40本もある。その中には郵政改革法案や地球温暖化対策基本法案など、野党が決して応じられないものも多い。
 更に、亀井国民新党代表の発言を見ると、肝心の政権内でかなり足並みの乱れがあることも事実だ。
 10月2日、サントリーホールでガラコンサートがあって、亀井氏に久しぶりに会った。いたって丁重な挨拶を受けてかえって戸惑ったが、その折のちょっとした言葉の中に、彼の苦渋が垣間見られたように思えたが、私の思い過ごしだろうか。

 さて、これから日本の政治はどのように進んで行くのか、私から見れば不安と不満ばかりだ。
 「菅内閣は出発したばかり、まずはお手並み拝見」という人もいるが、そんなのん気な話ではない。
 マスコミも我々国民も、日本の将来を考え、ここは厳しく見守っていく必要があると思っている。