言いたい放題 第91号 「情けない弱腰外交」

 随分、長い間政治家として歩んできたが、はっきり言って、今日ほどお粗末な政権を見たことはない。
 「こんな政治じゃ、日本がダメになる!!」と拙著で書いて世に問うたり、あらゆる場面で警鐘乱打してきたが、現職議員としてバッチを持たないことに、今、改めて空しい思いにかられている。
 まさに、民主党政権の無能さを、暴き出したのが、尖閣諸島での中国漁船衝突事件と、その後の対応の稚拙さであった。
 明らかな日本領海への侵犯行為であったが、特に、自らぶつかってきたことは公務執行妨害で、船長以下の逮捕は、日本の国内法に基づく当然の処置であった。
 菅首相はじめ仙谷官房長官、前原外相等政府首脳は、当初、法に則って粛々と対応すると公言していた。
 ところが中国側は異常なほどの反発で、反日デモが始まり、ついに温家宝首相自ら、恐喝ともいえる言動をもって、日本に大圧力をかけてきた。
 日中間で決まっていた各種会合のキャンセル、閣僚級の交流も中止、そのうえ、レアアース(希土類)という、日本のハイテク機器に欠かせない資源の輸出中止等々である。
 日本にとっては、まさにここが我慢のしどころ、正念場だ。国家の誇りと権威を持って、断固対応すると思っていたら、なんと9月24日、突然、船長釈放で一挙に腰砕けとなってしまったのである。
 しかも、処分保留(起訴猶予)で釈放と記者会見を開いて発表したのは、なんと那覇地検の次席検事ではないか。大変な外交問題となって、血の雨が降るという切羽詰まった状況の中でだ。なんで一地方組織の、しかも次席検事あたりに、事件の幕引きをさせようとしたのか、あまりの馬鹿さ加減に言葉もなかった。
 次席検事は、巡視船側に格別の損傷も負傷者も出ていない、船長の行為に計画性が認められない、日本国内での前科が無いなどを釈放理由として列挙した。
 だったらなんで漁船拿捕、船長らを逮捕したのか!
 最初の判断の誤りが、外交問題を引き起こし、日本の危機を招いたということではないか。一体、誰が責任をとるというのか、昔なら責任者は切腹ものだ。
 更に驚いたことに、この次席検事は、わざわざ「中国政府に配慮して」とも発言している。
 「ふざけるな!あんたがそんな生意気なことをいえる立場か!」
 検察庁法14条の規定で、検事総長が指揮権発動というのがあるが、今回は、そうした事実もないという。

 24日の仙谷官房長官は記者会見で、「船長釈放はあくまで検察独自の判断だ」との見解を繰り返した。
 それなら、国家の外交や安全保障にかかわる国益上の重大な判断を、一行政組織に過ぎない検察当局に丸投げしたということなのか。
 かつて国家公安委員長を務めてきた私の経験からいうと、この種の判断や決断は必ず内閣に求められるものなのである。
 今回の逮捕や釈放にしても、内閣の判断と決定によるものであることは明らかだ。
 一地方組織で決めることなど断じて出来る筈がない。
 前述のように菅首相は「日本が折れる必要はない」と、かなりの強気発言をしていた。しかし、21日にニューヨークを訪れた温家宝首相が「即時無条件釈放」を日本に要求し、「そうしなければ更なる行動をとる」と脅すと、一変に屈して、すっかり弱腰になってしまったのだ。
 船長の釈放は間違いなく、菅内閣の判断によるものだ。一地方検察を隠れみのにする姑息な態度は許せない。
 温首相のあの傲慢不遜な顔と比べて、菅首相の媚を売るような卑屈な笑いは何だ。
 まさに彼らの言う、蔑称小日本人の顔そのもので情けないかぎりである。

 船長は中国の仕立てたチャーター機で迎えられ、今や英雄である。
 しかも、船長を釈放しても中国の強硬姿勢は少しも変わらない。
 それどころか、中国は同日未明、なんと今度は謝罪と賠償を求めてきたのである。
 こちらが一歩後退すれば一歩出て来る。中国の外交の常套手段で、そんなことは過去の歴史を見れば、わかりきったことなのだ。
 さすがに、菅首相は「全く応じるつもりはない」とはっきり拒否した。当然のことなのだが、一体どこまで突っぱね続けるのか不安は残っている。
 明らかな報復処置だが、同時期に4人の日本人が拘束された。日本大使館は26日になって初めて、人道的観点から安全確保と迅速な処置を求めたが、何故、中国のように即時釈放を要求しないのだ。相手は「法律に基づき公正に審議する」と、日本が先に主張したことと同じ理屈であった。

 今回の事件は、ひたすら野党の立場で暮らし、政府を批判する以外何も知らない民主党政権故に起こったことだと私は思っている。
 そもそも自民党政権だったら、最初からこんな愚は決して犯していない。
 2004年4月、中国人活動家が尖閣諸島に上陸し、沖縄県警が不法入国の容疑で逮捕した事件があった。
 小泉政権時代だが、大局的判断に立って、2日後に強制送還した。
 小泉首相自ら政治介入を認めたわけだが、大人の外交とはこういうことをいうのだ。
 菅内閣では、みんなそろって「政治的判断ではない」と必死に言い続けている。私には何故なのかさっぱりわからない。
 むしろ、日中関係を考慮して、政治的判断を下したといった方が筋が通るし、相手国の納得も早いはずなのに・・・。

 菅首相は、こうした騒ぎの最中の25日(日本時間)、国連総会で演説した。
 もっぱら日本の常任理事国入りの決意を述べることが中心だった。
 国連安保理の常任理事国は、第二次大戦の戦勝5カ国のままだ。その上、中国も、ロシアもその時代の国家では全く無い。だから、日本の常任理事国入りは、我々自民党時代からの主張で、その意味では菅首相の演説は当然だ。しかし、今、当面出来そうもないテーマを、利口ぶって滔々と演説する時なのだろうか。
 折から、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の首脳が、ニューヨークに集って会議を開いていた。
 ベトナム、マレーシア、フィリピンなどで、これらの国々は今、島の領有権をめぐって中国と争っている。
 東シナ海と同じように、南シナ海でも権益確保の動きを強める中国は横暴を極め、彼らは苦しめられているのだ。オバマ大統領も加わったこの首脳会談の声明を見ると、米国の関与と期待を込めて、明らかに中国を牽制した「南シナ海の平和解決」が強調されている。
 せっかく、菅首相が国連で演説するなら、まさに日本の国運がかかっている日中領土問題にふれ、更に南アジア諸国を守る為の決意ぐらいは、たとえ間接的でも良いから主張すべきではなかったか。
 要は、ピントが狂っているのだ。悲しいくらいに大局的立場がなく、視野が狭すぎるのだ。
 常に利害を異にする相手と、どう付き合うかが外交だ。
 今回のように事を起こす場合は、まず相手の出方をあらゆる角度から考慮し、大事なことは最終的な着地点をあらかじめきちんと描くことだ。なんの配慮もせず、行き当たりばったりの対応では、相手国を利するばかりである。
 日本は今まで尖閣諸島は日本の固有の領土で、だから領土問題はないとして主張してきた。
 しかし、今度の事件を利用して、温首相は国連で日本を批判し、尖閣諸島には日中間の領土問題が存在するという認識を全世界に植え付けてしまった。
 そしてなによりも、ちょっと圧力をかければ、日本はすぐに屈服するという印象を、国際的に残してしまった。
 日本にとって相当なイメージダウンだ。かつてのような世界の信頼を取り戻すことは容易なことではないと思う。

 なんといっても、決定的なことは、民主党は素人集団だということである。
 長い経験を持つ自民党は、昨年の選挙の敗北で、かなりの人材を失ったが、それでもまだ潜在的能力を持っている。中国との関わりでも、様々なチャンネルを持っていて、水面下の交渉も可能なのだ。民主党には何も出来ない。
 何故、そこのところを国民は理解しようとしないのだろうか。
 世論調査によると、菅首相の信頼は低いが、民主党政権支持はV字型で上昇し、60%を超えているという。全く理屈に合わないのだが、こうなると、国民のレベルの問題ではないのかと思う。
 政治のレベルは国民のレベルで決まるといわれているが、残念ながら本当にそうだなと思うこの頃でなのある。