言いたい放題 第84号 「判決で悲喜交々(こもごも)」

 大阪地裁は、厚生労働省の局長だった村木厚子被告に、9月10日無罪判決を言い渡した。
 私はかつて労働政務次官を務めたことがあった。今は厚生省と合併して厚労省となったが、当省は懐かしい古巣のようなものだ。
 それだけに、村木女史の逮捕以来、その成行きに格別の関心と同情を持って注目していた。
 昨年6月逮捕されてから今日に至るまで、彼女は一貫して無罪を主張し続け、大阪地検のあらゆる取り調べに対して否認してきた。
 今回の無罪判決で、454日間にわたる冤罪による屈辱の日々は一応終るはずだが、まだ大阪地検による控訴もあり得るので気はゆるめない。
 「これ以上私の時間を奪わないで欲しい」という記者会見での発言に、彼女の全ての思いが込められているように感じた。

 障害者団体向けに、郵便割引制度があるが、これを悪用して実態のない団体が、企業広告を格安で大量に発送させた。
 この制度の適用を受ける為、民主党の長老石井一参議院議員による口添えが行われ、当時企画課長だった村木女史が不正発行を指示したということだた。
 検察側は虚偽有印公文書作成、同行使容疑で村木女史を含む4人を逮捕した。
 余談になるが、思えばこの石井議員もかつて労働政務次官で、今も厚労省に強い影響力を持っている。
 検察側は、国会議員が関与していることから色めき立って、彼らの描いた筋書に沿って供述調書を作り上げようとした。
 ところが、今回の裁判では、検察側が証拠採用を求めた供述調書43通のうち34通が、採用されなかった。
 つまり検察の追求がかなり強引で厳しく、作為的であったことから、彼らがつくった供述調書はとうてい信用出来ないものということだったのである。
 現に、いざ裁判になると、次々と証言が覆され、検察の考えた構図の大半が否定されてしまったのである。
 明らかに検察側の行き過ぎ、大ミスだ。何よりも大事な客観的な証拠を踏まえずに立件した訳で、このことは今後厳しく問われなければならない。
 私の早大先輩の元検事弁護士曰く、「検察は証拠が無くても容疑だけで逮捕出来る特権がある」。もし、そんなことがまかり通るとすれば、それは大変なことである。

 丁度、村木無罪判決前日の9日、鈴木宗男衆議院議員が最高裁で上告棄却で、懲役2年の実刑、追徴金1100万円の判決が確定した。
 彼の場合は、受託収賄罪や斡旋収賄など4つの罪に問われていた。
 彼が北海道開発庁長官時代(1997〜98)に、工事受注を島田建設(網走市)から頼まれ600万円の賄賂を受け取り、又、製材会社やまりん(帯広市)側から、林野庁への斡旋を頼まれ500万円を受け取った等というものだ。
 本人は、「賄賂をもらったという認識はありません」「いかなる環境でも闘う」と記者会見で語った。しかし、こちらは具体的に現金が動いたことは確かだし、大臣として職務権限もあったことから、極めて当然の結果のように思える。
 彼は秘書から政治家への道を歩み、東京地裁で有罪判決が下っても、「新党大地」を結成し、活動するなど、まさに浮沈の人生だった。
 私も直接知っていただけに、これから収監されるかと思うと本当に気の毒とは思うが、最高裁の決定だからやむを得ないことだと思っている。

 閑話3題・・・。
 現職の国会議員で実刑確定により失職となったのは、これで戦後4人目だ。
 ゼネコン汚職を問われた中村喜四郎元建設大臣もそうだったが、今回の鈴木氏も何故か選挙はめっぽう強い。
 なにしろ有罪判決が出ても当選するのだからビックリで、おおよそ東京など、我々の世界では考えられないことだ。
 私など、当たり前のこととはいえ、唯の一度も疑惑はなかったし、まともに働き続けて、この世界ではしっかり成果をあげたといわれているのに、何度も苦渋をなめてきた。振り返って楽な選挙は一度もなかった。
 今更言っても仕方がないが、政治家の人生はかなりの部分、選挙区の状況によって左右されるものだ。

 鈴木宗男氏は、民主党代表選挙で、側面から小沢一郎氏を支持していた。
 昨年の西松建設事件以来、鈴木氏は検察とやりあった経験者として小沢氏に助言を続けていた。最近は小沢氏支援を決めていない議員に働きかけるなど、積極的な動きが目立っていた。
 だから、「最悪のタイミングだ」と小沢派幹部から困惑の声が聞こえる。
 鈴木氏本人も、8日の記者会見で「(この時期に判決が出たことに)意図的な政治判断があったのか、小沢さんの立場に立てば引っかかる」等と語っている。
 一般の人から見れば理屈にもならない発言だが・・・。

 一方の菅陣営は、「小沢氏の政治とカネの問題について、改めて国民に注意を喚起する上で有利になる」と考えているという。人色々、立場が異なると言い分も変わる。それぞれが、自分の都合の良いように解釈し、勝手に語っているが、鼻白む思いである。

 鈴木宗男氏は失職するから、当然繰り上げ当選者が誕生する。
 新党大地の比例名簿第2位は八代英太氏だった。当然、彼が晴れて衆議院議員に返り咲くと思っていたら、何があったのか知らないが、なんと彼はすでに離党届を出していて、名簿から外されていて資格がない。
 第3位の鈴木氏の秘書が繰り上げ当選する見通しだ。
 かつて参議院に席を置き、次に大田区から国会に出、後に自民党から離れて新党大地に映った八代氏73歳。ちょっと我慢して残っていれば、国会に復帰出来たのにと同情しきりだが、これも人生色々、運命色々といったところだろうか。