言いたい放題 第82号 「地団駄を踏む思い」

 民主党代表選をめぐって、菅・小沢両氏の舌戦が一層激化している。
 党内でどんな激しい議論をしても、それは一向に構わないのだが、テレビ、新聞等、マスコミの前で、いわば外に向かって吠える姿は見苦しい。
 少なくとも二人は、ついこの間、良くも悪くも政権交代を共に実現させた同志ではなかったのか。

 鳩山前首相も含めて何よりも彼らに共通するのは、発言の中味が、行き当たりばったりで、一貫しないという点だ。
 まるで日替わりランチのように、自分の都合の良いようにくるくると発言を変える。国民の為に何を目指すのか、そんな政策論はそっちのけだ。
 本来、政治家にとって、いや「人」にとって大事なことは、己の発言に責任を持つということだ。
 一度、口に出したことは、必ず守らねばならない。当然の道理だ。

 勿論、政治は国家と国民という生きた相手を扱うのだから、どう安定的に守るかが最大のテーマで、世界の環境や状況が大きく変わった時は、臨機応変の対応も必要になる。
 しかし、その時は、結果的になぜ変えざるを得ないのか、国民に納得出来るよう真摯に説明しなければならない。
 少なくとも、方向転換が、自分達の誤りや見通しの甘さからのものなら、まずは率直に非を認めて国民に詫びることが先決なのだ。
 いやしくも、自分の御都合主義から、発言をくるくる変え、いささかも恥じない姿など許されることではない。君子豹変というが、詭弁を弄して平気で誤魔化すことではない。しかも、およそ君子とは言えない軽輩、小人においておやだ。

 それにしてもその変節ぶりに一番驚かされるのが鳩山氏だ。彼は政権担当8ヶ月にして、何も出来ない何もやらない、その上カネまみれの実像が国民の前に明らかになって、石もて追われるように退陣のやむなきに至ったのだ。
 その上、ご本人は一度は政界から引退するとまで、カッコ良く発言していたのである。
 ところが、今回、鳩山氏は、挙党態勢をつくる為にと、自ら仲介役になって、菅首相と2度も会見した。密室で何を語ったのかわからないが、「トロイカ方式」で行くことを一度は合意させたと報道機関はスッパ抜いている。
 トロイカ方式というのだから、言うまでもなく、鳩山、小沢、菅の三人で再び政権を背負うということなのだ。
 何のことはない、彼の言う「挙党態勢」とは、「もう一度、自分を表舞台に立たせて」ということだったのだ。あきれかえって物が言えないとはこのことだ。
 しかも、道連れにして幹事長を辞めさせた相手は、他ならぬ小沢氏なのだ。宇宙人といわれているが、この人は一体何を考えているのか、その頭の中の構造を覗いてみたいものだ。
 代表選で明らかに劣勢の菅氏は、トロイカ方式の申し出を一時は応じた。現に記者会見で本人が語っている。しかしその後、小沢側から役職等の要求が次々と出されて、さすがに首を縦に振ることが出来なかったようだ。
 結局、不承不承、二人の対決という今回の構図となってしまったのである。

 9月2日に開かれた日本記者クラブでの菅・小沢両氏の公開討論会の中味を聞いた。
 この人達には、この国をどうするのだなどという高邁な夢も理想も無いことに私は改めて愕然とした。
 菅氏はまず、「カネと数を重視するのは古い政治だ。クリーンな政治を実現する」と大見得を切ったが、明らかに小沢氏に対する口撃(こうげき)だ。まるで野党の党首を思わせるような敵意むき出しの発言だった。
 確かに、彼の言うことは正論だ。しかし、問題は、そんな人と一緒にあの鳩山政権下で手を携えてきたという現実だ。そんなことにはお構い無し、少しの責任も自覚も持っていないのだ。
 一方の小沢氏は、「政治とカネの問題から逃げない」と強調した。しかし、前の国会で、証人喚問も含めた野党の要求に対して、一切の説明もせずに、ひたすら逃げ回ったのは誰だったのだ。
 更に、「一年余の検察の強制捜査で実質的な不正、犯罪事実はなかった」と開き直るのだが、まぎれもなく秘書は有罪だったし、小沢氏は限りなく黒に近い「灰色」というのが結論であった。
 驚いたことに、検察審査会について、「一般の素人が、良いとか悪いとかいう検察審査会の仕組みが、果たしていいのかという議論は出て来る」と、検察審査会への圧力とも思えるような牽制球まで投げている。
 普通の市民の生活から出る感覚を、司法に生かすという趣旨から、検察審査会は生まれた。
 法改正がなされて、ようやく出発したばかりだというのに、いきなり見直しを言うなど、自分勝手な言い分で不見識極まりない。
 つい1年前、自分への捜査について「検察庁の国民への不当な弾圧だ」などと的外れな発言をしていたことを思い出す。

 政策面では、小沢氏は「国民と約束したマニフェストは必ず実現させなければならない」と何度も主張していた。これはこの3ヶ月、消費税問題など現実路線へと方向転換を図る菅氏への批判だ。
 衆議院選挙前、野党であった民主党は、選挙に勝たんが為に無責任なバラマキ政策を次々と打ち出した。
 しかし、現実に政権をとってみると、財政面でとても不可能だとはっきりわかって、彼らのマニフェストそのものを変え始めた。すでに破綻しているのだ。
 それなのに、マニフェストを頑なに守れといい、更に「所得税も住民税も大幅に減税する」と、なんとも気前のよい新たな提言まで行った。
 一体どこから財源を捻出しようというのだろうか。
 「行政のムダを省いて」と相変わらず臆面もなく語っているが、もうそんなことは100万遍も聞かされて飽きがきている。ただの空論だということを誰もが知っているのだ。
 行政のムダを省けば何十兆円でも出て来ると豪語してきたのは小沢氏だ。しかし、あの事業仕分け作業でも、出てきたのはわずか1兆円足らずではないか。行政の無駄をなくすことは必要だが、だからといって、そんなお金は簡単には出てこない。散々実験済みのことなのだ。
 苦しまぎれに、今度は、今,
概算要求が出されている菅政権下の予算案を、総組み替えすればなんとか財源は工面できるとまで言い出した。
 その場あたりの軽々しい議論でしかない。

 最も酷いのは沖縄基地問題だ。
 小沢氏は、「沖縄も米国も納得出来る案は、知恵を出せば可能だ」と発言した。「それなら具体的に教えて欲しい」といわれると、「三人集れば文殊の知恵ということがある。実は今、自分が持っているというわけではない」と、まるで子供だましの答えしか返ってこなかった。
 円高問題についても、極めて深刻な状態なのに、何ら誠意ある提言は皆無であった。
 その他の政策についても、なるほど思われるものは、ほとんどといっていい程無い。
 はっきりいって、菅、小沢両氏、政権担当者としての能力も資質も見当たらないというのが実感だった。
 鳩山政権時代、彼らは口先ばかりで何もしない、何も出来なかった。もはや彼らの賞味期限は切れている。変わり映えのしない古い政治家なのだ。そしてそのことはすでに天下に晒されていることなのである。
 せめて、彼らに変わる新しい人材は民主党の中にいないのか。所属議員を見渡すと、新人議員が圧倒的に多く、まるで素人集団だ。幹部といわれる人達もほとんど実力は無く、なによりも御身大切、保身第一と考えて右顧左眄(うこさべん)するばかり、残念ながら頼りになる人は見当たらない。

 こんな時こそ、自民党は堂々の論陣を張って、国民にこの国をどうするという政策を発表し、その存在感を天下に示さなければならない。
 長く政権を担当し、この国を今日まで創り上げてきたのは紛れもなく自民党である。
 その蓄積した政治上のノウハウを存分に発揮して、明日の日本のあり方を力強く示せば、必ず国民の期待と信頼は回復する。
 ところが、この時期、ニュースになった自民党の話題といえば、森元首相が、町村派に退会届を叩き付けたといったことぐらいだ。
 さきの参議院議員会長選挙で、同派の対応が遅れ、所属する谷川秀喜氏が落選した。そのことへの不満が爆発したからというのだ。
 谷川支援で協力してくれた額賀派や古賀派に顔向けが出来ないというのが、森元首相の言い分なのだが、なんともやり切れない程、ちっぽけな話ではないか。
 今、こんな派閥次元のことで揉めている時ではない。そんなことを続けていれば、それこそ国民に顔向け出来ないではないか。

 いずれにしても、与野党を問わず、最近の政治及び政治家の動きを見ると、悲しいやら情けないやらだ。
 私が人生をかけて歩んできた30年に及ぶ国会のありようは、少なくとも今の状況と比べて全く異なっていたように思えてならない。
 時には国民から批判を受けるようなこともあったが、少なくとも、国会議員達は、この国の今と将来を考え、燃えるような思いを持ち続けていた。国会での与野党の対決はギラギラした真剣勝負だった。
 今では、死語になりつつあるが、政治家を支えていたのはまぎれもなく愛国心だった。
 代議士の「士」は、サムライという意味で、武士道を忘れてはならぬと、今は亡き先輩達からよく教えられた。
 もののふ(武士)は、強いだけではなく、優しくなければならない。惻隠(あわれみ)の情を忘れず、恥を知ることが大切だとたたき込まれたものだった。

 近頃、時々、せめてあと10年若かったらなぁという思いにかられることがある。
 10年若ければ、あの国会という檜舞台で、国家の為に存分に活躍出来るのに・・・と。
 しかし、いくらそんなことを考えても詮無いことだ。
 やっぱり、今、自分に出来ることを精一杯やるしかない。
 あらゆる機会に、血を吐く思いで、正論を訴え続けていく、そして自分の情熱の全てを、次の時代を背負う若い人々に伝え育てていくことだ。

 あぁ、それにしてもこう続く不快な議論は何だ。毎日地団駄を踏む思いだ。
 そのせいか、近頃、私の腰痛も再発している。最もその原因はこの猛暑と冷房の故か。
 いや、もしかしたら孫達に媚びて、過日プールで競い合い、無理して頑張りすぎたからなのかも知れぬ。
 それにしても、今夏は本当に酷暑だ。