今、アメリカ国内で、猛烈なトヨタバッシングが起こっている。
 1つ問題を間違えれば、ジャパンバッシングになりかねない危機的状況である。
 ところがこうした動きに対して、なによりもトヨタ自体の対応が鈍くて、全て後手後手に回っている。この動きの遅さが、余計、アメリカの不満を増幅させている。
 今回のトヨタバッシングには、かつての日米自動車摩擦のように、多分に政治的な思惑が絡んでいて、なかなか一筋縄ではいかない難しさがある。
 一方で、日本政府の動きはといえば、全くの無策で、他人事のような静観ぶりである。
 一私企業だからと考えているとすればとんでもない誤りで、日本経済が輸出に頼っている現状を思えば、もっと政府は積極的に動くべきなのである。
 かつてない程の金まみれの鳩山・小沢政権だから、目下その対応にてんてこ舞いで、それどころではないというのが本音かも知れない。しかし、もしそうだとすれば、政権担当能力はゼロで、1日も早く退陣することが、日本の為だと私は思っている。

 そもそも、今回のことの始まりは、昨年8月にカリフォルニアで起こったレクサスES350の4人が死亡した暴走事故からであった。
 アクセルペダルが戻らなかったという事故原因について、トヨタ側は「構造には欠陥はない」と主張し続けたが、アメリカのメディアは特集を組んで一斉にトヨタ批判を繰り返した。
 更にトヨタは9月に入ってカムリなどでフロアマットがずれてアクセルペダルが戻らなくなった可能性があると発表、11月には、フロアマットの無償交換を行うことにしたのだが、もはやこれで納得する状況では全くなかった。
 今年1月21日になって、ついに非を認め、米国のカムリ、カローラなど8車種約230万のリコールに追い込まれてしまったのである。
 しかも、アメリカだけに止まらず、リコールは中国や欧州など全世界に広がりつつある。
 2月に入ると、最も期待されているプリウスのブレーキにも問題があるのではないかと指摘される。
 こうなるとトヨタバッシングは一層高まり、次々と新たな問題が噴き出てくるのではないかと懸念される。

 なぜ、トヨタにこのような連鎖的な問題が続くのか、それはなによりもトヨタ自身の危機感の欠如、そしてその背景に世界一の企業となって拡大戦略をとり続け、かつてのトヨタ生産方式と言われた「必要な分しか作らない」という基本を忘れた結果ではないか。
 豊田章男社長が言うように、「実際の需要以上に売り上げを伸ばしてきた面がある」ということだ。
 技術面も含めてトヨタ神話の崩壊かという人もいるが、そうなってはならないと思っている。

 今回のバッシングの背景に、アメリカの国内事情や政治的な動きがあることも見逃せない。
 かつて1970年代以降、日本車の輸出超過が、アメリカの自動車業界に大打撃を与えたと政治問題になったことがあった。
 いわゆる「日米自動車摩擦」だ。
 それまで自動車世界一を誇っていたアメリカだったが、80年代に入って日本車の性能が急速に向上し、小型低燃費等でアメリカ国民の人気を集めた。
 日本ブランド車は品質調査でも常に上位を占め、なによりも生産性を向上させコストも安かった。例えば一時、日本車に較べてアメリカ車が2000ドルも高く、輸送費を差し引いても尚、1500ドルも高かった。世界一の座に安住し小型車への開発もしない米の自動車産業界は、日本に席巻されていく。
 生産地デトロイトでは、失業率は25%近くに達したこともあった。
 その頃、牛肉等の畜産物や、米・柑橘類の農作物でも日本が輸入制限しているとの声が起ったり、商業捕鯨が環境団体に取り上げられ、反日キャンペーンが広がった、日本製乗用車がハンマーで叩き潰されたり、日本旗を燃やされたりと散々であった。

 私はこの時代、労働政務次官だったが、1980年9月、日米自動車問題をじっくり話し合う為に、日本政府代表として単身アメリカに渡った。マーシャル労働長官と藤尾正行労働大臣が決めた日程に従ったのである。
 前述のように、かつてアメリカ車は大型車を中心に世界の9割を占めていたが、性能の改良の遅れや、前年のイラン紛争を契機とした第二次オイルショックに対応できず一気に下り坂を転げ落ちた。今までの実に3分の1となってしまったのだ。
 自動車関連の失業者は100万人を超え、深刻な社会問題となっていて、それが全ては日本のせいといった按配で、「日本が悪い」の大合唱となってしまったのだ。

 アメリカへ出発直前、私は港区にある全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)に出掛けて、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いの塩路一郎会長を訪ねた。75万人を超える組合員のトップ、自動車産業を牛耳る労働組合のボスに対して、政治家は必ず挨拶に行くのが常だった。
 開口一番、「この問題は、われわれが相手と話し合ってきたこと、今更、政府側が行くことはない」と相手にもされない。
 強気一辺倒の私は憮然として「国を代表して政治家が出掛けていって論議するのは当然」とやり返したものだった。
 自動車交渉という難題をもって、ワシントン、デトロイトなどをわずか4泊で駆け巡ったのだが、当時、往復30時間の空の旅も快適で、時差ボケも無かった。今思えば本当に若かったのだナと感慨深い。
 自動車問題では現実に苦労している筈のデトロイトよりもむしろワシントンの方が激しく厳しかった。
 丁度カーターとレーガンが大統領選挙で熾烈な戦いの最中で、それが、日本批判に一層拍車をかけていたといえなくもない。
 デトロイトの全米自動車労働組合(UAW)の幹部と何度も会を重ね議論したが、相手の対応は極めて紳士的で、私の立場に敬意を表してくれる。
 労働組合の駐車場に、日本車が溢れているのにも驚かされた。デトロイトでは石を投げつけられると覚悟していたのだが、全てが意外な展開で、日米関係は次第に落ち着きを取り戻した。
 後に分かるのだが、例の塩路氏が、なんとわざわざ国際電話をかけて、「深谷をよろしく」と伝えていてくれたとのことであった。
 数年後、「塩路天皇」と異名を取っていた彼は、様々なスキャンダルもあって失脚するのだが、あの頃は、労働組合にも「サムライ」が居たのである。
 その折、フォード社の幹部にも会ったが、日本がこれほど自動車の開発に力を入れているのに、アメリカ政府は少しも力を入れてくれないと、むしろ私に不満をぶつけていた。
 100人のアメリカ人と会えば100の意見がある。メディアの影響が大きく、真実を知る機会も少ない。
 とにかく、早い対応と誠実な交渉を重ねることが、政治であり外交であると思ったものだった。

 今、アメリカの自動車産業は、2008年9月に始まった金融危機の煽りを受けて大凋落の年を迎えている。2009年4月にまずクライスラーが連邦破産法を申請、そして77年間も王者として君臨してきたGMも6月に破綻、その負債総額は1728億ドル(約16兆4千億円)に達した。
 大統領就任後、支持率の低下に苦しむオバマ大統領にとって、こうした米自動車産業の再建に、どう対応するかは重要な課題である。次々と運転資金の貸し出し等対策を打ち出して来たが、必ずしも成果を挙げているとは言い難い。
 トヨタバッシングはある意味、アメリカ政府にとって格好のテーマとなった。
 運輸省のラフード長官の度重なる極端なトヨタ批判の発言や、米議会の公聴会への豊田章男社長の強い出席要請など、アメリカの思惑が感じられる。消費者の関心の高い車の安全性の問題だから、秋に中間選挙を控えている議員も、日本車たたきは選挙術の1つとなっている。
 又、この機会にと、GMやフォードは、トヨタ車の買い換えに1000ドル(約9万円)のキャッシュバックやゼロ金利ローン処置をつけるなど、攻めに転じているが、米議会の一連の発言や行動と、あまりにもタイミングがあっているではないか。

 アメリカは政府も業界も、この時とばかりに国をあげてトヨタ追い落としに血道をあげているのだが、情けないことに一向に腰をあげないのが、日本の政府である。
 本当は経済産業大臣こそ、率先して動かなければならないのだが直嶋正行大臣は、「やはり、対応が遅いのではないか」と言うだけ、まるで評論家である。
 鳩山政権は自動車総連という大労働組織をバックにしている。まして、直嶋大臣はトヨタ労組出身の政治家ではなかったのか。
 直ちにアメリカに交渉に飛んでいく位の誠意や気迫はないのか。かつて同じ通産大臣であった私から見れば、理屈ばかりで何もしない大臣の姿が歯がゆくて腹立たしい。
 もっとも、普天間問題で示されているように、政権発足以来、アメリカに失望と不満を与え続けている民主党政権だから、何も出来る道理もないか・・・。
 トヨタバッシングは、日本政府の種々の対応のまずさに対するアメリカのしっぺ返しだという人もいるくらいなのだ。

 唯一の救いは、アメリカ国民の中にも、今のバッシングは明らかに行き過ぎではないかと、冷めた目で見ている人が多いということである。
 かつての80年代以降の日米貿易摩擦の時と諸状況は全く異なっている。トヨタにしても着実に現地生産に移行させてきたし、その為に雇用拡大に貢献もしている。
 具体的にいえば、トヨタは米国で売る車の6割前後を北米で生産しているのだ。
 販売店も加えると北米での雇用は、17万2千人を超えている。
 トヨタの生産拠点が置かれているアメリカの4州の知事は、トヨタ擁護の書簡を米国議会に提出しているくらいだ。
 今やトヨタはアメリカで尊敬される存在で、トヨタ方式といわれる考え方は、企業や大学での教材になっている程なのである。
 言い換えれば、アメリカにおけるトヨタはすでに生活の一部となっているのだ。そしてその安全性を信ずるトヨタオーナーは、このような事態になっても依然として多いのである。

 だから、ここは、トヨタ自身、もう一度そのあり方を振り返り、あらゆる角度から自己点検し、これらの人々の期待にどう答えていくのか、誠実に熟慮改革していくことこそ大切なのである。
 豊田社長も米議会の公聴会に行くの行かないのと、いたずらに米側に誤解を抱かせず、出掛けて誠意を持って対応することが肝要なのだ。

 トヨタバッシングが、ジャパンバッシングにならぬよう、繰り返すが、鳩山政権の米国への積極的な対応を強く求めたい。そして、なによりもよき日米関係を再構築する為に、政府をあげて努力しなければならない。それが出来ないなら鳩山首相、一刻も早くお辞めなさいと言いたい。