言いたい放題 第32号 「びっくり鳩山・小沢両氏の三百代言」

 1月21日から、衆議院予算委員会が開かれた。テレビに映し出される委員会室の光景は私にとってはなつかしい場所だ。
 かつて細川・羽田政権をわずか10ヶ月で追い落とした、私にとっては忘れる事の出来ない修羅場なのだ。
 平成5年に自民党が野党に陥落し、今日と同じように、自民党もこれで終わりといわれた時代である。しかも、細川護煕政権の場合は、今の鳩山氏の40%台という低下傾向と違い、70%という高い支持率を誇っていて、まさに難攻不落といわれたものであった。
 しかし、断じて負けないという不屈の精神で、すでに引退した野中広務氏や、今は立場は異なるが亀井静氏らと共に、私は峻烈な闘いを挑んだものであった。
 当時、マスコミ等は厳しい質問ぶりに、私を予算男・武闘派と呼んだ。
 この頃の状況は、拙著「時代に挑む」(講談社/東都書房)に予算委員会の一部議事録も含めて詳細を述べている。是非御覧頂ければ幸甚である。

 さて、今回の予算委員会だが、党首対決も含めて、はっきりいって迫力のないやりとりで終始していた。
 攻める谷垣禎一自民党総裁は、一言でいえば品が良くて、物静かだ。
 アナウンサー歴の長い堀江政生氏がいみじくも、「こわもての悪役を演じて欲しい。それがプロだ。」と書いていたが、全くその通りだと思った。
 まだ政権与党の意識が残っているのか、野党であるという反骨精神が伺えない。あるいは大敗北の影響で、嫌われまいと世論を気にしすぎているのか。いずれにしても、政治生命を賭けた、不退転の覚悟が一向に伝わってこない。せっかく追いつめ、ここが突っ込みどころという場面で「今回のところはそれぐらいで」と何度も終ってしまう。満員の与党の応援団から、わざとらしい失笑まで出て、私は一人切歯扼腕していた。
 はっきりいって、政権交代は果たしたものの、民主党には世間で期待していたようないい所は、目下のところ、全くといって無い。
 選挙中のマニフェストは都合によってくるくる変わるし、財政規律のない無責任な、莫大な額の予算案も見てくればかりで、景気回復への具体的なものはまるで見当たらない。沖縄問題には少しの見識も誠意も示さず、全て先送りばかりで、いたずらに沖縄県民の不安を高め、大切な日米関係まで悪くする一方だ。
 しかも、鳩山首相も小沢幹事長も、不正献金から脱税まで金にまつわるうす汚れた話題ばかりではないか。小沢氏など秘書の逮捕どころか今や御本人も危ないともっぱらの話題だ。
 細川政権の時も、スキャンダルは決して少なくなかったが、これほどひどくはなかった。
 追求するべき材料が山ほどあるのに、何故責めようとしないのか。私から見れば、これだけ条件がそろっているのだから、追い詰めることなど容易だと思えるのだが・・・。

 しかし、もっとひどかったのは鳩山首相の答弁ぶりである。
 「巧言令色少なし仁」というが、巧みに飾った言葉を語気を和らげて、さももっともらしく喋り続ける、「そんな人に立派な人物はいない」と見事に喝破した昔の人の言う通りだ。
 首相が母親からもらった月々1500万円、わかっているだけで12億6,000万円もの巨額な「子供手当」について、「私は全く知らなかった」と平然と言い続ける。「庶民感覚からかけ離れている」と谷垣氏は言われたが、庶民感覚とは関わりなく、要はそんな巨額のお金を受け取っていながら知らないなど、あり得ない話なのだ。嘘八百に決まっているのに「僕ちゃんは、なにも知らない」と金持ちぶって誤魔化している。こんなことを許してはいけない。
 この日の答弁で、「私腹を肥やしたことはない」と従来からの説明を繰り返したが、私腹を肥やしたかどうかを問うているのではない。
 贈与されたお金は、誰からであろうと贈与税を払うのが法律で、これを払わなければ脱税だということなのである。
 更にいえば、後から払えば済むということではない。この額よりもはるかに少なくても、どれだけの人が脱税で逮捕されているのか。
 鳩山氏の発言の中で、更に驚かされたのは、自分への疑惑は検察によって全て解明されたと、あきれた詭弁を弄したことである。
 母からの資金提供は、弁護士を通じて調べたが判らなかったが、検察の捜査で初めて明らかになった。その上、自分は不起訴になったのだから問題はないと、検察をお墨付きにして自己弁護しているのだ。
 小沢氏の件では検察への不信を語り、対決さえも辞さない姿勢を示したのに、これでは二枚舌だ。
 
 鳩山首相の決定的な欠陥は、自分がどういう立場にあるのかという認識が全く無いことだ。
 小沢さんを頼るあまり、何の配慮もなく、「信じています。どうぞ闘って下さい。」といい、すでに逮捕された石川知裕衆議院議員についても、「起訴されないことを望みたい」と語った。明らかに捜査の行方に言及している発言である。
 いうまでもなく、総理大臣というのは行政権力全体に責任を負うトップだ。
 これらの発言は、行政機関の一員である検察の行動に対して、大きく牽制したことになり、大変な圧力をかけたことになる。
 本来なら、行政の長として鳩山総理は公平中立な捜査を積極的に促さなければならない立場なのにだ・・・。
 答弁の中で、やたらと、小沢氏を「同志」と表現し、「信じたい」とくりかえした。それはあくまで個人的な感情で、公の場で語ることではない。総理たるもの、ただの一私人ではないのだ。
 むしろ、幹事長を辞めさせ、国会で説明責任を果たせるように指導するのが鳩山総理の立場なのではないか。
 しかも自分の発言について批判が起こるや、直ちに修正し詫びてみせる。軽率極まりない。
 茂木敏充議員とのやりとりの中でも、「もしそういわれるなら撤回します」と、あっさりと引っ込めた。茂木氏は、私が通産大臣時代の政務次官で優秀な政治家だが、なぜここで怒って、委員会を止めるくらいのことをしないのか、と残念だった。

 鳩山氏、小沢氏は、「政治と金の問題は総選挙前から出ていた。しかし、国民の圧倒的な支持を得て政権交代したのだから、国民の理解を得ている」とうそぶいている。
 しかし、それはとんでもない、誰でもわかる嘘八百。こういうのを三百代言というのだ。
 鳩山氏への母親からの12億円をこえる巨額な子供手当も、小沢氏の土地購入4億円疑惑も、具体的な数字も含め明らかになったのは全て選挙後の話だ。
 厚顔無恥とはこのようなことを言うが、現に世論の80%は彼らの対応を支持していない。

 ところで総理も総理なら、やっぱり閣僚も閣僚だと言いたくなる。彼らの無責任な軽い言動が目立っている。
 中井洽国家公安委員長は、「検察も国民に対して責任説明がある」と語った。この人は何もわかっていないと私はあきれてしまった。
 私も経験したが、国家公安委員長というのは警察のトップだ。
 明確なことは、検察や警察に求められるのは「説明責任」ではなくて、「立証責任」ということなのである。
 悪に対して積極的に対決し、あらゆる角度から調査捜査して、司法の場で完全な証拠を示せるようにする。その立証責任こそ彼らのつとめなのだ。
 検察や警察が、あらゆることを事前に公にして説明したら、犯罪の追求など出来はしない。政治家に求められるのは国民に対する説明責任、検察や警察に求められるのは立証責任、こんな初歩的知識の無い人に国家公安委員長の資格はない。
 千葉景子法務大臣は、「検察に対する指揮権発動は絶対使わないことではない。一般論として指揮権発動はあり得る」と語っている。
 今回の予算委員会でも、終始、同じことを繰り返した。
 確かに検察庁法14条によって、法務大臣は検事総長に対して指揮権を発動し、捜査や逮捕を止めることが出来るようになっている。
 ただし、これが発動されたのは、昭和54年吉田茂内閣時代の一度しかない。
 時の自由党佐藤栄作幹事長は、いわゆる造船疑獄事件の収賄容疑で、逮捕直前であったが、犬養健法務大臣の指揮権発動によってこれを免れた。
 しかし、これが濫用されれば、時の政治権力によって捜査が左右されると考えられ、以来、悪しき前例となって、再び行使されることはなかった。
 それでなくても、国会開会中に、議員を逮捕しようとすれば、まず許諾請求を出し、本会議で可決されなければならない。圧倒的多数の民主党だから、仮に出しても可決されるとは限らない。逮捕まで大きな二つの壁が立ちはだかっているのだ。
 だから小沢氏側が何だかんだと理由をつけて事情聴取までずるずると引き延ばし、国会へ逃れようとしていたのだ。一方で、検察側も、だから開会前の石川逮捕に踏み切ったとも言われているのだ。
 千葉法相は元社会党に所属し、労働組合の票を中心に当選して来た議員である。
 小沢氏に最も近い参議院のボス、輿石東参議院議員会長の支配下にある。
 本来なら、思想的にも指揮権発動には終始反対にあるべき人だ。しかし、今は小沢氏失脚となれば自分の立場も失う、そんなことを心配しているのか。
 委員会での答弁で指揮権発動はあり得べしと言い続けるところをみると、逆に小沢氏逮捕の内部情報でもあるのかと勘ぐりたくなったものだ。
 社会正義を守るべき法務大臣としては、「指揮権発動などは行わない」と毅然たる態度で明言すべきだ。そうあってこそ、国民も法律を遵守しようということになるのだ。
 他の大臣の危うい発言も沢山あるが、もう書く気力もない。
 親分が親分なら子分も駄目というところなのである。

 折から、1月23日は、この疑惑について東京地検特捜部は、ついに小沢一郎幹事長の事情聴取を行った。
 実に4時間半に及ぶ聴取だったが、終了後、小沢氏は記者会見で、「疑惑関与について全面的に否定し、引き続き幹事長職を全うする」と強気の発言を行った。
 記者会見では、文書も配布したが、「土地購入に関しては、代金の支払いや所有権の処理などには関与せず、相談も受けてない。秘書がやったのだ」と主張。土地購入後の複雑な会計処理にも関与していない。土地を買った際、秘書から個人での借り入れを求められたので、その求めに応じて銀行の書類に署名した。収支報告書については、全く把握していない。「帳簿や報告書は見たことはない。」と、自分の言い分だけを一方的に書いてあった。まったくもっての厚顔ぶりである。
 なんでも秘書がというが、元秘書は、「何事においても小沢氏の言うとおりに行うのが当たり前で、秘書が小沢氏を無視して、勝手に何かを行うなど絶対にない」と発言している。
 土地の購入も、まして巨額な支払いについても自分は知らぬというが、どこの世界の常識に照らしても、そんなことはあり得ない話だ。
 4億円の借り入れで銀行の書類に署名しながら、中味はなんだか分からない等、よく言えたものだ。ここいらの言い方は鳩山総理とそっくり同じで、この通りなら阿呆か間抜けか、どちらにしても政権のトップに立てる人物ではない。
 検察から特別のコメントは無かったが、第1回の聴取で全否定を行うであろうことは、むしろ織り込み済みで、想定内のことであったに違いない。

 ただ、新しい事態が小沢氏自身の口から出たことには驚かされた。
 今まで小沢氏は参考人としての出頭要請であった。しかし、今回は小沢氏に対して民間グループからの告発状が出ているので、それに基づく被告発人としての事情聴取になったというのである。
 その為に、いきなり黙秘権の告知から始めたというのだからびっくりだ。
 つまり、参考人ではなく容疑者として取り調べると宣言されたわけで、事態は小沢氏が考えている程甘くないということだ。
 2通の供述調書に署名したことも記者会見で述べたが、これらの経過は裁判において、格段に強い証拠価値を持つことになると思う。
 今後、この小沢供述が、客観的な証拠に基づいて異なっていた場合、虚偽の供述をしたということになり、一気に小沢氏は不利になる。
 小沢氏は今回の聴取で、一連の疑惑の幕引きを行うとしているが、中味のない話だけに国民が納得するはずもない。
 引き続き検察は粘り強い捜査を続けていくであろう。おそらく全容解明には時間もかかり、長期化していくのではないだろうか。

 鳩山氏、小沢氏の命運は今後どうなっていくのだろうか。
 それにしても日本の将来がかかっているのだから、決して看過せず、私も厳しい目で見続け、必要な時には断固発言を続けなければならないと思っている。