言いたい放題 第22号「許されない暴挙、天皇会見」

 さすがにどの新聞を見ても、とんでもないことと驚きを込めて一様に批判的だ。
 政府の、というより民主党の強い意向で、中国習近平国家副主席と、天皇陛下の会見が、強引に決められたことだ。
 そもそも、陛下の外国賓客との引見は、2003年に前立腺ガンを患われた陛下の体調を考慮し、又、相手国の公平性の観点から、一ヶ月前までに文書で正式に申請することを原則としている。
 これが一般的にいわれる一ヶ月ルールというものである。
 今回の場合、中国政府から、習副主席の来日にあたって、是非、陛下にお目にかかりたいとの打診があったので、外務省はこの一ヶ月ルールを何度も説明していた。
 ところが、中国では毎年12月に次年度の経済運営方針を決める中央経済工作会議があり、指導部は必ず出席しなければならず、その為に訪日の日時が決まらなかった。
 そこで、このルールに外れた為、宮内庁の意も含めて外務省は会見は無理と答えていたのだ。
 1949年の建国以来、初めて天皇と会見したのはケ小平副首相で1978年のことであった。
 胡現主席は副主席になったばかりの1998年、天皇陛下に拝謁している。
 いいかえれば、中国指導者にとって、天皇との会見は極めて意味のあることで、それが出来るか否かで評価が決まるといってよい。
 胡氏の前例のように、習副主席がこれに成功すれば、ポスト胡の追い風になる。次の党大会が開かれる2012年に最高指導者になれば、それから10年は習時代が来ること必至なのだ。
 いわば、天皇との会見は、中国側の都合で日時が決まらず、かの国の指導者の都合で、ルール違反承知で会見を強く求めるということになったのである。

 もっとも重要なことは天皇陛下を政治の領域へ巻き込んではならないということだ。
 現憲法では、天皇は政治的権限を一切持っていない。政治的立場を超える国の象徴となられているのが、現在のお立場である。したがって、天皇の国事に関する全ての行為は内閣の助言と承認を必要とし、その責任は内閣が負うことになっている。
 しかし、これは、内閣の都合や勝手で、天皇を動かしてよいということでは断じてない。
 内閣は全ての責任において、恣意的な政治利用をしないということが大原則なのである。
 あきれたことに、鳩山首相は、「一ヶ月を数日間切れば、杓子定規でダメだということで、果たしてそれが本当に諸外国との国際的親善の意味で正しいのか」と記者団に語っている。
 首相が平野官房長官に指示して、今回のような強引な決定を宮内庁に求めたのは、一ヶ月の数日足りないどころではなくて、習副主席来日わずか一週間前なのである。
 その平野官房長官は、「習氏は日中関係において非常に重要な方だから」と繰り返したという。しかし、政治的に重要だからとか、懸案事項があるからということで、会見を決めるとしたら、これこそ明かな天皇の政治利用、憲法違反なのだ。
 そんなことも全くわかっておらず、口先だけの詭弁で押し返そうとする鳩山首相の発言には怒りを通り越してあわれみさえ感じる。
 もっとも、母から9億円(実際はこれをはるかに上回るが)ももらって、明らかな法律違反の脱税行為なのに、これからは税を納める方向で検討しますと、今更、うそぶく破廉恥な人だから、政治に関してもこの程度なのかも知れぬ。
 しかし、今回の一連の行為は日本国家にとって、憲法上、断じて許されないことで、無知だからで済ます訳にはいかないのである。

 ところで、今回のような誤ったことを強引に推し進めさせたのは誰かといえば、これはもう間違いなく小沢一郎幹事長である。
 鳩山首相は、わざわざ「小沢幹事長から話があった訳ではありません」と断ってみせたが、語るに落ちるとはこういうことをいうのだ。
 さきの訪中前、小沢幹事長に直接、中国側から、楊潔篪外相、崔天凱中国大使らが次々と訪れ、なんとかして欲しいと懇願している。
 前述のように外務省や、なによりも宮内庁から、今回は認められないと伝えているのにである。このことは、鳩山首相も納得していた筈と確かな筋(官邸詰記者)が明言している。それが、このような形に豹変したのは、まさに小沢氏の圧力によるもので、今更言うまでもない。
 600人の訪中団を引き連れて、媚中外交を行った小沢氏にとって、実は、天皇引見の約束が、中国への最大のおみやげだったのだ。
 
 今回の天皇の政治利用の悪しき前例がつくられた中で、唯一、毅然たる態度で終始したのが、宮内庁長官羽毛田信吾氏である。
 彼は厚生省の出身で、官邸事務方の要ともいえる主席内閣参事官も経験している。
 かつて、私は予算委員会等で、彼とは何度も同席しているのでよく知っているが、一本気の硬骨漢であった。
 委員長が「羽毛田君」と呼ぶと、一瞬場内はどっと笑い声が出たりする。
 名前の通り、彼は頭髪があまりなかったからだ。気の毒に思って、私の場合、役職名で呼んだものだが、彼はそんなことは無頓着で、平然と答弁していたものである。
 彼は、「両陛下のなさる国際親善は、政府の外交とは次元を異にし、相手国の政治的な重要性とか、その国との間の政治的懸案があるとか、そういう政治的判断を超えたところでなさるべきものだ」と明確に語っている。
 この国は大事、この国は大事でないといった、政治的重要性で取り扱いの差をつけてはならない、厳格にルールを守ることが大切で、「だから外務省にもお断りした」という、当然の見識だ。
 しかし、宮内庁も内閣の一翼をしめる政府機関である以上、総理の補佐役である官房長官の指示には従わざるを得ない。
 「こういったことは二度とあって欲しくない」と記者会見で締めくくった。
 役人として、実に勇気のいる発言だと私は感銘を受けた。
 鳩山政権、小沢民主党は一貫して、脱官僚、政治家主導を言い続けるが、政治家として立派な見識と行動を伴っているかということが大前提でなければならない。こうした点を考えると、今の民主党政権には全く期待が持てない。

 こうした一連の誤った民主党政権の行動に、もっと大きな批判の声があがっていいのではないか。何故正しい世論が生まれないのか。
 いづれにしても、今回の件は、日本の将来に大きな禍根を残したという面も含めて、肝に命じて、みんなの記憶に残しておく必要があると思っている。